今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
玄関先に立っていた店名入りのキャップとTシャツを着た男は、胸ポケットからメモ帳を取り出して依頼内容を改めて確認していく。あらかたは電話で説明してあるので、あとは実物を見てもらうだけだ。
「洗濯機と冷蔵庫、電子レンジの引き取りって聞いてますが、見せて貰っていいですか?」
「あ、どーぞ。お願いします」
「年式によっては買い取りできなくて、反対にリサイクル料を頂かないといけないこともあるんで」
持参したスリッパを出して上がり込んだリサイクル屋の為に、洗面所のドアを開け放しにする。それぞれの製造年式をチェックしていく様子を、子供と一緒に遠巻きに見守った。
手持ちしていたファイルで型番をチェックして、スマホの電卓アプリを使って査定額を計算しているようだった。アナログなのかどうなのか、その辺りの判断が難しい。
「どちらも買い取りできるギリギリの年式なんで、これが精一杯ですね」
提示された電卓の数字は、1350円。なかなか厳しい買い取り額。でも、リサイクル料を支払って処分することを思えば断る理由がない。
元々、全て2年前にリサイクルショップで叩き売りされてた物だったから、査定に通ったのは奇跡だ。ダメだった場合は引っ越し業者に処分依頼するつもりでいたのだから。
差し出された買取り伝票にサインをすると、リサイクル屋が驚きが隠せない顔で瑞希のことを見ていた。
「え、相沢さんって、相沢さん?」
改めて名前を繰り返され、電話でも名乗ったはずなのに一体何だと、瑞希はきょとんとして男の顔を見上げた。リサイクルショップのロゴ入りのキャップの下の日に焼けた顔は、自分と同じ二十代後半といったところか。目を丸くしてこちらを見ているその男のことは、言われてみれば見覚えがあった。
「あれ? 山本君だっ」
「やっぱ、相沢さんかぁ。似てるなーとは思ったんだけど、結婚したって噂は聞いてないのに子供がいるしさ……あ、ごめん」
勢い余って滑った口を慌てて抑える。地元の中学で一緒だったけれど、会話した記憶のない同級生は申し訳なさそうに頭を掻いていた。中学の3年間で一度だけ同じクラスになったはずだが、何年生の時のことだったかすら思い出せない。
「引っ越し?」
「うん、明日ね。新しい家には家電とか全部あるから、買い取って貰えて助かったよ」
久しぶりに再会した同級生がボロアパートのまともな家具もない一室で子供と二人で住んでいる光景に、山本からすればこの上なく気まずかっただろう。型落ちの型落ちのような古ぼけた冷蔵庫と洗濯機、電子レンジを軽トラに積み上げると、元野球部のエースは「ま、頑張れよ」と片手を挙げてから運転席へと乗り込んでいった。
――何か、気を使わせちゃったみたいだね……。
サービスだと言って大量に貰ってしまったポケットティッシュを、クローゼットの引き出しにしまい込む。
冷蔵庫とレンジが無くなると、狭かったはずのキッチンスペースが急に広く感じる。冷蔵庫を置いていた場所の埃を雑巾で拭いていると、この部屋を出る実感がじわじわと湧いてきた。
2年前の瑞希にとって、この部屋を借りることさえ精一杯だった。傷だらけのフローリングと日焼けして色褪せた壁紙。子供を抱き、スーツケースを引き摺りながら辿り着いたここで、何度涙を堪えただろうか。
「洗濯機と冷蔵庫、電子レンジの引き取りって聞いてますが、見せて貰っていいですか?」
「あ、どーぞ。お願いします」
「年式によっては買い取りできなくて、反対にリサイクル料を頂かないといけないこともあるんで」
持参したスリッパを出して上がり込んだリサイクル屋の為に、洗面所のドアを開け放しにする。それぞれの製造年式をチェックしていく様子を、子供と一緒に遠巻きに見守った。
手持ちしていたファイルで型番をチェックして、スマホの電卓アプリを使って査定額を計算しているようだった。アナログなのかどうなのか、その辺りの判断が難しい。
「どちらも買い取りできるギリギリの年式なんで、これが精一杯ですね」
提示された電卓の数字は、1350円。なかなか厳しい買い取り額。でも、リサイクル料を支払って処分することを思えば断る理由がない。
元々、全て2年前にリサイクルショップで叩き売りされてた物だったから、査定に通ったのは奇跡だ。ダメだった場合は引っ越し業者に処分依頼するつもりでいたのだから。
差し出された買取り伝票にサインをすると、リサイクル屋が驚きが隠せない顔で瑞希のことを見ていた。
「え、相沢さんって、相沢さん?」
改めて名前を繰り返され、電話でも名乗ったはずなのに一体何だと、瑞希はきょとんとして男の顔を見上げた。リサイクルショップのロゴ入りのキャップの下の日に焼けた顔は、自分と同じ二十代後半といったところか。目を丸くしてこちらを見ているその男のことは、言われてみれば見覚えがあった。
「あれ? 山本君だっ」
「やっぱ、相沢さんかぁ。似てるなーとは思ったんだけど、結婚したって噂は聞いてないのに子供がいるしさ……あ、ごめん」
勢い余って滑った口を慌てて抑える。地元の中学で一緒だったけれど、会話した記憶のない同級生は申し訳なさそうに頭を掻いていた。中学の3年間で一度だけ同じクラスになったはずだが、何年生の時のことだったかすら思い出せない。
「引っ越し?」
「うん、明日ね。新しい家には家電とか全部あるから、買い取って貰えて助かったよ」
久しぶりに再会した同級生がボロアパートのまともな家具もない一室で子供と二人で住んでいる光景に、山本からすればこの上なく気まずかっただろう。型落ちの型落ちのような古ぼけた冷蔵庫と洗濯機、電子レンジを軽トラに積み上げると、元野球部のエースは「ま、頑張れよ」と片手を挙げてから運転席へと乗り込んでいった。
――何か、気を使わせちゃったみたいだね……。
サービスだと言って大量に貰ってしまったポケットティッシュを、クローゼットの引き出しにしまい込む。
冷蔵庫とレンジが無くなると、狭かったはずのキッチンスペースが急に広く感じる。冷蔵庫を置いていた場所の埃を雑巾で拭いていると、この部屋を出る実感がじわじわと湧いてきた。
2年前の瑞希にとって、この部屋を借りることさえ精一杯だった。傷だらけのフローリングと日焼けして色褪せた壁紙。子供を抱き、スーツケースを引き摺りながら辿り着いたここで、何度涙を堪えただろうか。