今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
途中、流行りの高級食パンの店を見つけると、手土産代わりに一斤を購入する。店名入りの紙袋の中から、ふんわりと甘いパンの香りが漂ってくる。拓也と二人では食べ切れないと叱られるかもしれないが、瑞希が意外とパン好きなのは知っているし大丈夫だろう。
マンションに着いてキーケースに付けた鍵を手に取るが、少し考えてからそれは使わず、インターフォンで部屋番号を呼び出した。
「はーい」
短い返事と共にオートロックを解除してもらうと、エントランスホールを抜けてエレベーターに乗って6階に向かう。605号室前まで来ると、玄関前のチャイムを押せば、「開いてるよ」という返事が。
「鍵はちゃんと閉めとかないと」
「今開けたとこだから。っていうか、下のインターフォンもいちいち鳴らさなくていいのに……」
鍵は持ってるでしょう? と聞かれ、素直に頷く。先日は留守だったからと勝手に上がり込んでしまったが、本当はあれはダメだったんじゃないかと不安になっていた。今の自分達の距離がいまいち掴めず、今日は試しに鍵を使うのを止めてみた。瑞希の反応を確認してみたかった。
「勝手に入っても平気なんだ?」
「え、当たり前じゃない。伸也の家でしょう?」
夕食の準備をしながら、瑞希は「何、寝ぼけたことを言ってるの?!」と少しむっとした顔をする。忙しい時間にインターフォンで手を止めさせられたことを怒っているのか、それとも急に他人行儀な態度を取ったことを怒っているのか。
それは別にどちらでもいい。ちゃんと瑞希が自分のことを受け入れてくれているのは分かったから。
「でも、帰って来る時は連絡してくれるかな。ご飯食べるでしょう?」
作りかけの夕食に野菜を足しているところをみると、食卓の予定が狂ったことを怒っているのかもしれない。「ごめん」と謝りつつ、買ったばかりの食パンが入った紙袋を差し出す。
「あ、そこのお店の?! 気になってたけど、自分では買う勇気なかったんだよね、嬉しい」
そこまで高くはないけれど、日常買いするには贅沢な価格。普段はスーパーで100円前後で売っている食パンばかり食べている身としては、なかなか手が出ない。気になるものの、いつも前を素通りしてばかりいた店の紙袋を受け取ると、瑞希は大事そうにキッチンカウンターに置いてからパンの香りを嗅いだ。
「んー、朝ご飯まで待てないっ」
「すぐ食べるなら、切ろうか?」
「いい? 5枚切りの厚さでお願い。このくらいで」
親指と人差し指で希望の厚みを伝えながら、伸也に包丁を手渡す。パン切り用のナイフなんて物は持ち合わせて無いから普通の包丁だが、マメに研いでいるので切れ味は抜群だ。
「耳側をトースターで焼いて。真ん中は拓也も食べると思うし、そっちは薄めで」
「え、注文が多いな……」
パンに合う献立にすれば良かったと嘆きながらも、瑞希はご機嫌だった。高級食パンも嬉しいが、伸也が瑞希の好きな物をちゃんと覚えてくれていたことの方が嬉しかった。
マンションに着いてキーケースに付けた鍵を手に取るが、少し考えてからそれは使わず、インターフォンで部屋番号を呼び出した。
「はーい」
短い返事と共にオートロックを解除してもらうと、エントランスホールを抜けてエレベーターに乗って6階に向かう。605号室前まで来ると、玄関前のチャイムを押せば、「開いてるよ」という返事が。
「鍵はちゃんと閉めとかないと」
「今開けたとこだから。っていうか、下のインターフォンもいちいち鳴らさなくていいのに……」
鍵は持ってるでしょう? と聞かれ、素直に頷く。先日は留守だったからと勝手に上がり込んでしまったが、本当はあれはダメだったんじゃないかと不安になっていた。今の自分達の距離がいまいち掴めず、今日は試しに鍵を使うのを止めてみた。瑞希の反応を確認してみたかった。
「勝手に入っても平気なんだ?」
「え、当たり前じゃない。伸也の家でしょう?」
夕食の準備をしながら、瑞希は「何、寝ぼけたことを言ってるの?!」と少しむっとした顔をする。忙しい時間にインターフォンで手を止めさせられたことを怒っているのか、それとも急に他人行儀な態度を取ったことを怒っているのか。
それは別にどちらでもいい。ちゃんと瑞希が自分のことを受け入れてくれているのは分かったから。
「でも、帰って来る時は連絡してくれるかな。ご飯食べるでしょう?」
作りかけの夕食に野菜を足しているところをみると、食卓の予定が狂ったことを怒っているのかもしれない。「ごめん」と謝りつつ、買ったばかりの食パンが入った紙袋を差し出す。
「あ、そこのお店の?! 気になってたけど、自分では買う勇気なかったんだよね、嬉しい」
そこまで高くはないけれど、日常買いするには贅沢な価格。普段はスーパーで100円前後で売っている食パンばかり食べている身としては、なかなか手が出ない。気になるものの、いつも前を素通りしてばかりいた店の紙袋を受け取ると、瑞希は大事そうにキッチンカウンターに置いてからパンの香りを嗅いだ。
「んー、朝ご飯まで待てないっ」
「すぐ食べるなら、切ろうか?」
「いい? 5枚切りの厚さでお願い。このくらいで」
親指と人差し指で希望の厚みを伝えながら、伸也に包丁を手渡す。パン切り用のナイフなんて物は持ち合わせて無いから普通の包丁だが、マメに研いでいるので切れ味は抜群だ。
「耳側をトースターで焼いて。真ん中は拓也も食べると思うし、そっちは薄めで」
「え、注文が多いな……」
パンに合う献立にすれば良かったと嘆きながらも、瑞希はご機嫌だった。高級食パンも嬉しいが、伸也が瑞希の好きな物をちゃんと覚えてくれていたことの方が嬉しかった。