今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
 園長に代わって事務職員に園内を案内してもらい、拓也が通う予定の乳幼児クラスの保育室を覗く。トイレトレーニング用の広く清潔なトイレと、園内調理ができる給食室。屋上にはプールもあったし、茶室まであった。

「年長さんになると、保護者の方をご招待してのお茶会があるんですよ。お茶菓子にさつま芋の茶巾を手作りしておもてなしするんです」
「え、すごい……」

 その材料のさつま芋は子供達がお世話している園舎裏の畑で収穫すると聞いて、瑞希は目を丸くした。あと4年もしたら、拓也もそんなことが出来るようになるのかと思うと、嬉しくもあり寂しくもある。

 ずっと今を生きるのが精一杯だったから、拓也が大きくなった時のことを想像したことが無かった。その時その時のことしか考えてあげられず、将来の為に何かを経験させてあげようと考える余裕すらなかった。
 保育園なんて、仕事の合間に子守りして貰うだけの場所だって思ってたかもしれない。

 余裕が無かったせいでとても視野の狭い子育てをしていたことに気付き、申し訳ない気持ちが溢れ出る。と同時に、これからは伸也と一緒に相談しながら、拓也の成長を見守ることができるのだと思うと、とても心強い。

 家に戻ってから、ベビーシッターの祥子に保育園の印象を伝えると、納得した顔で大きく頷いていた。この辺りでは有名な園らしく、人気があり過ぎて幼児クラスからは入りにくいとも言われているらしい。

「園長先生のこだわりが強くて、体操や英語のカリキュラムも組み込まれているらしいですね。ベビークラスの内に入れてラッキーですよ」
「そうなると、なんか通っている家も凄そうですね……」
「そうですねぇ、確かに余裕のある家のお子さんが多いかもしれませんね」

 貰って来た入園の手引き書に目を通して、瑞希は顔を青褪める。幼児クラスが着ている制服のお値段はなかなかの物だった……ブランド制服、おそるべし。

「あらあら。KAJIコーポレーションの安達社長のお子さんなんですから、拓也君も負けてはいませんよ」

 祥子の言葉も、貧乏性がガッツリ身に付いた瑞希には何の慰めにもならなかった。
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