今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
「最近、初めてのお店を開拓するのにハマってるんです」
同じ課の同僚と共に昼休憩は本社近くの店の探索をしているらしく、彩菜は最近お気に入りに追加したというパスタ専門店について揚々と語り出す。パンは食べ放題だとか、デザートは何種類の中から選べるとか、そういった身にならない話を車中で延々と隣で繰り返されて伸也は顔をしかめた。
無視を決め込んで膝上にノートPCを開き、メールで送られてきた書類に目を通し始めると、退屈だと言いたげに頬を膨らませている彩菜が視界の片隅に入ってくる。この調子では会食で余計な恥をかかされかねないと、伸也は隣に座る彩菜へと向く。
「神崎さんのスマホのアドレス教えてくれるかな?」
「ええ、勿論っ」
ぱっと目を輝かせて、嬉しそうにメアドを答える彩菜に、伸也はにこりと微笑んでからPCを操作する。すぐに彩菜が手に持つスマホからメールの着信音が鳴り響いた。
「今日の会食相手に関する資料を送ったから、店に着くまでに目を通して貰えるかな」
「え……はい」
「あと、向こうではマナーモードにするのは忘れないでください」
我ながら意地悪だったかもとは思ったが、ミラーに映った本田の満足そうな表情に安心する。間違いなく今日の会食では、唯一頼れるのは彼だけだ。
店に着いてからも彩菜の言動には営業部長と共に頭を痛めた。頑なに伸也の隣に座りたがり、会話の最中の必要以上のボディタッチと上目遣いは煩わしかった。
「安達社長はおモテになるんでしょうね」
彩菜の態度が露骨だったからか、会食相手からも揶揄いの言葉を掛けられる。首を振って否定する伸也の隣で、彩菜は大きく頷いている。
「そうなんですよ。安達社長に代わられてから、秘書課は激戦区なんです」
「神崎さん、タクシー呼んで貰って先に帰っていただけますか?」
低い声で言い放った伸也の言葉に、本田がスマホを持って個室から出る。車の手配が付いて戻って来た時も、彩菜は3杯目のカシスオレンジを片手に持ってご機嫌で伸也の腕に絡まっていた。
「社長はお酒は飲まれないんですか?」
酔っぱらって呂律の怪しくなってきた彩菜に反して、ウーロン茶しか頼まない伸也へ会食相手の取締役が問いかける。KAJIコーポレーションからの三人でアルコールを口にしているのは秘書の彩菜だけだった。相手側は運転手を担っている秘書以外はビールを中心に嗜んでいる。
「ええ、飲み過ぎて人生を狂わされかけた経験があるので、それ以来は飲んでませんね」
「それはそれは……」
「酔っぱらって気が付いたら飛行機の中だったので、怖くて二度と飲む気がおこらなくなりました」
先代からの長い付き合いのある会社だ、それなりに噂として聞いていたのだろう。それ以上の詳しいことは聞いてはこなかった。ただただ同情の目を向けられた。
同じ課の同僚と共に昼休憩は本社近くの店の探索をしているらしく、彩菜は最近お気に入りに追加したというパスタ専門店について揚々と語り出す。パンは食べ放題だとか、デザートは何種類の中から選べるとか、そういった身にならない話を車中で延々と隣で繰り返されて伸也は顔をしかめた。
無視を決め込んで膝上にノートPCを開き、メールで送られてきた書類に目を通し始めると、退屈だと言いたげに頬を膨らませている彩菜が視界の片隅に入ってくる。この調子では会食で余計な恥をかかされかねないと、伸也は隣に座る彩菜へと向く。
「神崎さんのスマホのアドレス教えてくれるかな?」
「ええ、勿論っ」
ぱっと目を輝かせて、嬉しそうにメアドを答える彩菜に、伸也はにこりと微笑んでからPCを操作する。すぐに彩菜が手に持つスマホからメールの着信音が鳴り響いた。
「今日の会食相手に関する資料を送ったから、店に着くまでに目を通して貰えるかな」
「え……はい」
「あと、向こうではマナーモードにするのは忘れないでください」
我ながら意地悪だったかもとは思ったが、ミラーに映った本田の満足そうな表情に安心する。間違いなく今日の会食では、唯一頼れるのは彼だけだ。
店に着いてからも彩菜の言動には営業部長と共に頭を痛めた。頑なに伸也の隣に座りたがり、会話の最中の必要以上のボディタッチと上目遣いは煩わしかった。
「安達社長はおモテになるんでしょうね」
彩菜の態度が露骨だったからか、会食相手からも揶揄いの言葉を掛けられる。首を振って否定する伸也の隣で、彩菜は大きく頷いている。
「そうなんですよ。安達社長に代わられてから、秘書課は激戦区なんです」
「神崎さん、タクシー呼んで貰って先に帰っていただけますか?」
低い声で言い放った伸也の言葉に、本田がスマホを持って個室から出る。車の手配が付いて戻って来た時も、彩菜は3杯目のカシスオレンジを片手に持ってご機嫌で伸也の腕に絡まっていた。
「社長はお酒は飲まれないんですか?」
酔っぱらって呂律の怪しくなってきた彩菜に反して、ウーロン茶しか頼まない伸也へ会食相手の取締役が問いかける。KAJIコーポレーションからの三人でアルコールを口にしているのは秘書の彩菜だけだった。相手側は運転手を担っている秘書以外はビールを中心に嗜んでいる。
「ええ、飲み過ぎて人生を狂わされかけた経験があるので、それ以来は飲んでませんね」
「それはそれは……」
「酔っぱらって気が付いたら飛行機の中だったので、怖くて二度と飲む気がおこらなくなりました」
先代からの長い付き合いのある会社だ、それなりに噂として聞いていたのだろう。それ以上の詳しいことは聞いてはこなかった。ただただ同情の目を向けられた。