今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
「戻って来てからは鴨井さんに乗せてもらうばかりだし、必要な時は借りればいいって思ってたけど、いろいろ連れてってあげられるから買い直してもいいかもしれないね」

 子連れに便利で瑞希も運転しやすいのがいいなと、思いつく車種を頭に浮かべる。以前とは選ぶ視点が全く違っているのが新鮮だ。
 車のことや海にまつわる思い出などを話していると、前方に少し大きめのスーパーの看板が見えてきた。昨今のスーパーなら必ず100均が入っているだろうと目を凝らせば、建物の壁面にセリアの三文字。

「あそこ、セリア入ってるって」
「じゃあ、寄って!」

 平面駐車場に車を停めて貰うと、まだ拓也が眠っているからと瑞希は一人で財布だけを持って店に向かった。玩具の陳列棚は店の奥にあったが、どこの100均も似たような並びをしていることが多く、目的の品はすぐに見つかった。バケツにシャベルなどが入ったお砂遊びセットと小さな青いジョウロを購入する。家にあるのはダイソーの物ばかりだったから、形違いの新しい玩具も喜んでくれるだろう。

 車に戻った瑞希は後部座席のドアに掛けかけた手を止める。中で伸也が何かを話しているのに気付き、そっと窓から覗いてみる。身体を捻り運転席から後ろを向く伸也は、眉を寄せて渋い顔をした拓也を必死で宥めているようだった。

「大丈夫だからね。ママはすぐに戻って来るよ。玩具を買いに行ってるだけだからね」
「……」
「えっと……まだパパには慣れないよね。だよね……」

 泣きはしないが、微妙な顔で伸也のことをじっと見ている。知らない場所で、知らない車の中で、2歳児なりに考えている顔なのだろうか。風呂でも見せていたという顔はきっとこれのことだろう。自分には決して見せてくれない、貴重な表情だ。

「ただいま。お砂用の玩具、買ってきたよー」
「まーま!」

 露骨に笑いを堪えながらドアを開けた瑞希に、伸也は少しバツが悪そうな顔を向ける。まだ二人きりになるのは早すぎたみたいだと、座席に座り直してはぁっと溜息をつく。

「瑞希が降りてすぐ起きちゃったよ」
「寝起きは特に機嫌が悪いからね……でも、泣かなかったし随分と慣れたみたいだね」
「そうなの?」

 あれが慣れた顔とは思えないと、拓也の渋い顔を再び思い出してみる。父親として認めて貰うには、もう少し時間が必要なのかもしれない。
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