今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
39.
「会わせてくれないのなら、せめて写真だけでも送ってくれてもいいんじゃないの」
そう言いながら社長室へと踏み込んで来た母親を、伸也は呆れ顔で出迎えた。まだ一度しか顔を合わせたことはないが、安達百合子にとって初孫になる拓也。彼の成長していく様子を遠巻きでも良いから見たいと思うが、現状ではまだ叶わない。
ならせめて写真くらいはと何度も訴えているけれど、薄情な息子は滅多に送ってもくれない。そこで本社に来たついでの直談判だ。
「あー……忘れてた。またそのうち、送っとく」
「そのうち、そのうちって言って、いつまで経っても何も送ってくれないから来たのよ!」
伸也が多忙なのは重々承知だ。けれど、写真一つ送るくらいしてくれてもいいじゃないの、とKAJIの女帝は吠えたてる。困り顔をしつつ、胸ポケットから取り出したスマホを操作し始めた伸也は、アルバムを開くと、先日の海で遊んだ日の写真から3枚を選んで、母親宛に送信してやる。
「あら、随分と顔付きがしっかりしてきたのねぇ」
部屋に入って速攻、当たり前のようにソファーを陣取っていた百合子は、バッグから取り出した自分のスマホを目尻を下げながら眺めていた。秘書が淹れて出してくれたコーヒーはすっかり冷めてしまったが、そちらには手を伸ばすことなく、小さな液晶画面に完全に釘付け状態だ。
「ねえ、動画はないの? 写真ばかりじゃなくて」
「……あるにはあるけど」
海辺で小さなバケツを持ったまま走り回る拓也の、ほんの数秒ほどの動画。息子から送られてきたそれは、手振れが激しくてお世辞にも見やすいとはいえない。けれど、百合子は何度も繰り返し再生する。
「可愛いわねぇ……」
無邪気にはしゃいでいる孫の姿と、スピーカーから聞こえてくる伸也と瑞希の笑い声。彼らを引き離し、過酷な境遇を強いてしまった百合子の罪は一生消えることはない。孫を愛しいと思う気持ちと同時に、己の過去の決断を悔いた。
せめて一日でも早く、彼らが一緒に居られるようにと尽力すれば、少しくらいは罪滅ぼしにもなるだろうか。
「そうそう、何かに使えるかもしれないから、これは預けておくわね。ゆくゆくは伸也の物になるんだし、好きにすればいいわ」
横に置いていたバッグから取り出したA4サイズの茶封筒を、百合子は目の前のテーブルへと置く。そしてようやくコーヒーに手を伸ばし、その冷めた温度に小さく眉をひそめる。
「ただ長子が途絶えなかっただけの家系の、何が偉いのかしらね」
事あるごとに、父である宗助が呟いていた言葉を、百合子も同じように呟いてみせる。父が気嫌いして距離を置いていた十分な理由がそこにはあった。
そう言いながら社長室へと踏み込んで来た母親を、伸也は呆れ顔で出迎えた。まだ一度しか顔を合わせたことはないが、安達百合子にとって初孫になる拓也。彼の成長していく様子を遠巻きでも良いから見たいと思うが、現状ではまだ叶わない。
ならせめて写真くらいはと何度も訴えているけれど、薄情な息子は滅多に送ってもくれない。そこで本社に来たついでの直談判だ。
「あー……忘れてた。またそのうち、送っとく」
「そのうち、そのうちって言って、いつまで経っても何も送ってくれないから来たのよ!」
伸也が多忙なのは重々承知だ。けれど、写真一つ送るくらいしてくれてもいいじゃないの、とKAJIの女帝は吠えたてる。困り顔をしつつ、胸ポケットから取り出したスマホを操作し始めた伸也は、アルバムを開くと、先日の海で遊んだ日の写真から3枚を選んで、母親宛に送信してやる。
「あら、随分と顔付きがしっかりしてきたのねぇ」
部屋に入って速攻、当たり前のようにソファーを陣取っていた百合子は、バッグから取り出した自分のスマホを目尻を下げながら眺めていた。秘書が淹れて出してくれたコーヒーはすっかり冷めてしまったが、そちらには手を伸ばすことなく、小さな液晶画面に完全に釘付け状態だ。
「ねえ、動画はないの? 写真ばかりじゃなくて」
「……あるにはあるけど」
海辺で小さなバケツを持ったまま走り回る拓也の、ほんの数秒ほどの動画。息子から送られてきたそれは、手振れが激しくてお世辞にも見やすいとはいえない。けれど、百合子は何度も繰り返し再生する。
「可愛いわねぇ……」
無邪気にはしゃいでいる孫の姿と、スピーカーから聞こえてくる伸也と瑞希の笑い声。彼らを引き離し、過酷な境遇を強いてしまった百合子の罪は一生消えることはない。孫を愛しいと思う気持ちと同時に、己の過去の決断を悔いた。
せめて一日でも早く、彼らが一緒に居られるようにと尽力すれば、少しくらいは罪滅ぼしにもなるだろうか。
「そうそう、何かに使えるかもしれないから、これは預けておくわね。ゆくゆくは伸也の物になるんだし、好きにすればいいわ」
横に置いていたバッグから取り出したA4サイズの茶封筒を、百合子は目の前のテーブルへと置く。そしてようやくコーヒーに手を伸ばし、その冷めた温度に小さく眉をひそめる。
「ただ長子が途絶えなかっただけの家系の、何が偉いのかしらね」
事あるごとに、父である宗助が呟いていた言葉を、百合子も同じように呟いてみせる。父が気嫌いして距離を置いていた十分な理由がそこにはあった。