今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜

40.あの時のこと(伸也ver.)

 自動ドア前まで見送りに出てきた店員に軽く礼を告げた後、伸也はガクンと肩を落として溜め息をついた。携帯ショップの店前で、小刻みに震えの残る手で両目を覆う。

「……瑞希」

 帰国後、会社が手配する空港までの迎えを断って、一番近いショップへとタクシーで乗り込んだ。一分一秒でも早く、携帯電話を復活させたくて、飛行機も朝一の便に変更してもらった。

 なのに……。

 二年前に緊急停止した電話番号で開通した新しいスマホは、電源が入った途端に一斉にメールの受信を始めた。SNSの未読も半端ない数が届いていた。
 けれど、これまで溜まっていたもの全てを見られるようになるのかと思っていたが、そうじゃなかった。保管期間やサーバの容量による制限とやらで、古い物から順に消されていて、その大半は迷惑メールの類に貴重な容量を奪われ、既に確認できないものとなっていた。

 ――畜生。なんでっ……。

 どれだけ遡って確認してみても、求めていた履歴は一つも見つからなかった。瑞希からの連絡が残っていればと安易に考えていた自分の浅はかさが憎い。サーバの保管期間が切れてしまうくらい、自分は彼女のことを放置してしまっていたのだ。

 スマホの外箱等の入った紙袋を握る手は、まだ震えている。それを反対の手で持ち直すと、駐車場に待たせていたタクシーの後部座席へと急いで乗り込む。

「――市へ、お願いします」

 連絡先が分からないのなら、直接会いに行けばいい。日本へ帰って来て一番会いたい人の、住んでいるはずの場所を運転手へと告げる。
 思い出の詰まった景色をタクシーの中から眺めている時は、ようやく会えるんだと胸が高鳴っていた。記憶を頼りに向かった住宅街は、二年の月日を感じさせないほどは変わってはいなくてホッとした。

 けれど、

「……そんな娘は、うちにはおりません」
「え、でも……」
「とにかく、我が家には息子しかいないんですっ、お引き取り下さい」

 かつて何度も訪れたことのある家の門前で、伸也は途方に暮れていた。これといって特徴がある訳でもない建売住宅に掲げられているのは、間違いなく相沢の表札。遠目には見た覚えのある瑞希の母から、忌々しいものを見る眼を向けられていた。
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