今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
出金表に張り付けられたアスクルの納品書。事務用品以外にもティッシュペーパーなどの消耗品名がずらりと並んでいて、かなり大箱で届いているはずだ。だが、そんな大きな段ボールは店内にもバックヤードにもどこにも見当たらない。
「あ、それ、吉崎店長が北町店の分だからって言って、すぐに送り状を張り替えて送ってましたよ」
「ハァ?!」
ハンディモップを持って棚の掃除をしていた学生バイト君が、木下が手に持つ納品書を覗き込んで言う。さらにその後に続けられた台詞に、恵美はさらに特大の「ハァ?!」を口にせざるを得なかった。
「ちなみに、その送料は元払いでした」
「あります、あります。北町店への送り状の控え。めっちゃ元払いです」
備品の納品書と重ねて張り付けられた、青色の控え。お世辞にも上手いとは言えない吉崎の字で品名の欄には『備品』と堂々と記載されている。
「え、これって、うちの経費ですよね?」
後輩からの至極当たり前の質問に、恵美も瑞希も黙って頷く。呆れて声を出す気にもならない。
「……他にもやられているかもしれない。販促品とかディスプレイ用材とか、不自然に減ってる物が無いか確認してくれる?」
恵美の指示で、次々と湧いて出てくる前任のやらかし。
「新品のポップスタンドが一個も無いんですけど」
「ロゴ入りブルゾンも、何か減ってない? 一番キレイなやつが無くなってるかも」
「光沢紙のストック、全部使い切られてます! インクとラミネートフィルムも残り少ないです」
「あー……向こうに持ってくって、張り切ってポップ作ってたわ、最近」
みんなが協力して溜め込んでいた割り箸やストローのストックまで、とにかくあらゆる物が持ち出されていることが発覚していく。
「……セコい」
紛失した可能性のある物を書き留めたメモを眺めて、恵美が短く吐き捨てる。呆れ過ぎて溜め息すら出てこない。北町店は以前にも勤務していて愛着がある店かもしれないが、ここだって昨日までは彼の店だったはずなのだが……。
「クレーム入れて、送り返してもらう?」
受話器を手に取り電話を掛けようとしている恵美に、瑞希が心配そうに尋ねる。初日から大変だと同情すると同時に、早いうちに気付けたのも彼女の判断力があってこそと感心する。
瑞希の言葉に、恵美は黙って首を横に振り、登録済みアドレスから本社の電話番号を表示させた。マネージャーにでも報告するつもりなのだろうか? そう思ったが、恵美の表情からはどうも違うようだ。
「あ、それ、吉崎店長が北町店の分だからって言って、すぐに送り状を張り替えて送ってましたよ」
「ハァ?!」
ハンディモップを持って棚の掃除をしていた学生バイト君が、木下が手に持つ納品書を覗き込んで言う。さらにその後に続けられた台詞に、恵美はさらに特大の「ハァ?!」を口にせざるを得なかった。
「ちなみに、その送料は元払いでした」
「あります、あります。北町店への送り状の控え。めっちゃ元払いです」
備品の納品書と重ねて張り付けられた、青色の控え。お世辞にも上手いとは言えない吉崎の字で品名の欄には『備品』と堂々と記載されている。
「え、これって、うちの経費ですよね?」
後輩からの至極当たり前の質問に、恵美も瑞希も黙って頷く。呆れて声を出す気にもならない。
「……他にもやられているかもしれない。販促品とかディスプレイ用材とか、不自然に減ってる物が無いか確認してくれる?」
恵美の指示で、次々と湧いて出てくる前任のやらかし。
「新品のポップスタンドが一個も無いんですけど」
「ロゴ入りブルゾンも、何か減ってない? 一番キレイなやつが無くなってるかも」
「光沢紙のストック、全部使い切られてます! インクとラミネートフィルムも残り少ないです」
「あー……向こうに持ってくって、張り切ってポップ作ってたわ、最近」
みんなが協力して溜め込んでいた割り箸やストローのストックまで、とにかくあらゆる物が持ち出されていることが発覚していく。
「……セコい」
紛失した可能性のある物を書き留めたメモを眺めて、恵美が短く吐き捨てる。呆れ過ぎて溜め息すら出てこない。北町店は以前にも勤務していて愛着がある店かもしれないが、ここだって昨日までは彼の店だったはずなのだが……。
「クレーム入れて、送り返してもらう?」
受話器を手に取り電話を掛けようとしている恵美に、瑞希が心配そうに尋ねる。初日から大変だと同情すると同時に、早いうちに気付けたのも彼女の判断力があってこそと感心する。
瑞希の言葉に、恵美は黙って首を横に振り、登録済みアドレスから本社の電話番号を表示させた。マネージャーにでも報告するつもりなのだろうか? そう思ったが、恵美の表情からはどうも違うようだ。