今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
「お疲れ様です、東モールの西川です。経理の井上さんはいらっしゃいますか?」
本社へと繋がった電話口へ向かって、恵美は普段よりワントーン高めの声で経理担当を指名する。瑞希も何度か電話で話したことがあるが、古参で本社勤務歴も長いベテランの女性社員だ。午前中の慌ただしい時間帯にも関わらず、電話はすぐに経理職員へと繋がったらしい。
「あ、井上さん、お疲れ様です。昨日送らせていただいている出金表のことなんですが――」
木下から受け取った先日分の出金表を確認しながら、恵美が順を追って説明し始める。
ショッピングモール中に、開店を知らせる軽快な音楽が流れ始めた。遠くの方から聞こえ出した騒めきが、館の隅っこにあるここまで届くにはまだもう少し掛かるだろう。
「これなんですが、前任の吉崎さんが間違って北町店分をうちのアカウントで発注されたみたいなんですよね。購入品は届いてすぐに送り直しされて向こうに着いてますので、両店の経費の訂正をお願いしたいんです」
バイト君の話を聞く限り、吉崎は故意的にこの店の経費を使って購入したとは思うのだが、建前ではちょっとした発注ミスということにしてあげるらしい。あまりにらしくなくてどうしたんだ? と意外そうに見守る瑞希へ、恵美は舌を小さく出しながら笑い返した。
「あと、できれば発送に掛かった送料も元払いになってますが、それもうちの方で計上する必要はないと思うんですよね。――はい、伝票は出金表と一緒にFAX済みです」
備品の購入代金に比べたら安いが、送料の負担だって見逃さない。本来は必要のない経費で、こちらの店が払わされるのは納得いかない。やっぱり恵美は恵美だ、容赦なかった。
「それからですね、吉崎さんにうちの備品ストックを大量に持って行かれちゃったんで、これから足りなくなった物の発注をし直さなければいけないんですが、これってこっちの経費で計上されるのはどうかなと思いまして……。結構急ぎで必要な物が多いんですが。今、購入予定リストをメールします」
吉崎が持ち出したと思われる備品リストを、通話しながら本社宛てにメール送信する。リストされた物に一つも無駄な物は無いはずで、大半が至急に購入しなければ業務に支障をきたす可能性がある。量は多いが発注自体を止められることはないはずだ。
そして、それらに掛かる経費は吉崎の店に計上してもらうのが当然だと、恵美は主張し続ける。
「北町店に言って送り返して貰うのでもいいんですが、それだとまた送料が余計に掛かっちゃいますよね? なら、こちらで新たに買い直す方が手っ取り早いと思うんです」
本社へと繋がった電話口へ向かって、恵美は普段よりワントーン高めの声で経理担当を指名する。瑞希も何度か電話で話したことがあるが、古参で本社勤務歴も長いベテランの女性社員だ。午前中の慌ただしい時間帯にも関わらず、電話はすぐに経理職員へと繋がったらしい。
「あ、井上さん、お疲れ様です。昨日送らせていただいている出金表のことなんですが――」
木下から受け取った先日分の出金表を確認しながら、恵美が順を追って説明し始める。
ショッピングモール中に、開店を知らせる軽快な音楽が流れ始めた。遠くの方から聞こえ出した騒めきが、館の隅っこにあるここまで届くにはまだもう少し掛かるだろう。
「これなんですが、前任の吉崎さんが間違って北町店分をうちのアカウントで発注されたみたいなんですよね。購入品は届いてすぐに送り直しされて向こうに着いてますので、両店の経費の訂正をお願いしたいんです」
バイト君の話を聞く限り、吉崎は故意的にこの店の経費を使って購入したとは思うのだが、建前ではちょっとした発注ミスということにしてあげるらしい。あまりにらしくなくてどうしたんだ? と意外そうに見守る瑞希へ、恵美は舌を小さく出しながら笑い返した。
「あと、できれば発送に掛かった送料も元払いになってますが、それもうちの方で計上する必要はないと思うんですよね。――はい、伝票は出金表と一緒にFAX済みです」
備品の購入代金に比べたら安いが、送料の負担だって見逃さない。本来は必要のない経費で、こちらの店が払わされるのは納得いかない。やっぱり恵美は恵美だ、容赦なかった。
「それからですね、吉崎さんにうちの備品ストックを大量に持って行かれちゃったんで、これから足りなくなった物の発注をし直さなければいけないんですが、これってこっちの経費で計上されるのはどうかなと思いまして……。結構急ぎで必要な物が多いんですが。今、購入予定リストをメールします」
吉崎が持ち出したと思われる備品リストを、通話しながら本社宛てにメール送信する。リストされた物に一つも無駄な物は無いはずで、大半が至急に購入しなければ業務に支障をきたす可能性がある。量は多いが発注自体を止められることはないはずだ。
そして、それらに掛かる経費は吉崎の店に計上してもらうのが当然だと、恵美は主張し続ける。
「北町店に言って送り返して貰うのでもいいんですが、それだとまた送料が余計に掛かっちゃいますよね? なら、こちらで新たに買い直す方が手っ取り早いと思うんです」