今更だけど、もう離さない 〜再会した元カレは大会社のCEO〜
返して貰えたとして、その後に向こうは向こうで一から買い直しになる。掛かってしまう日数や送料を考えると、どちらが賢明だろうかと。イレギュラーな対応に電話口の井上は少し考えあぐねいている風だったが、発注すると主張している物品に不審な点は見当たらず、渋々ながらも了承してもらえたようだった。
「あと、キャリア支給のブルゾンなんですが、あれって本社発注でしたよね? こちらも足りなくなった分を追加お願いします。――そうですねぇ、2枚あれば何とかいけると思います」
吉崎が持ち出したと思われるのは1枚だけだったはず……。ついでに古くなった分も交換してもらう気なのか、多めに言っている。
「――助かります。よろしくお願いします」
経理との交渉を終えて受話器を下ろし、ふぅっと長い息を吐いた後、恵美は瑞希の顔を見上げてニッと悪い笑顔を見せた。
「納品書をFAXする時、北町店分って大きく書いといて、だって」
「全部、向こう持ちに?」
「当然!」
このことを他店へ移動した前任が気付くのは、下手したら来月頭の実績集計後だろうか。当日の売り上げしか見ていない吉崎のこと、昨日の経費が書き換えられたことすら気付かない可能性が高い。
「恵美のことだから、てっきり吉崎店長に直接文句でも言うのかと思ってた」
ぽろっと本音を漏らす瑞希に、「私のこと、何だと思ってんの?」と恵美はケラケラと笑い返す。
「まさか。嫌でも月1は店長会議で顔合わせなくちゃいけないんだよ、揉めないに越したことはないわ」
申し送りもなく備品を持ち出したのは吉崎の方だ。責める理由はあっても責められる謂れは全く無い。けれど必要以上に敵対してしまっても良いことなんてほとんどない。古賀マネージャーが恵美を後任に指名した根拠は、おそらくこういうところにあるのだろう。
店の前を通る人の姿がちらほらと増え出して、本日最初の来客が店の中へと足を踏み入れた。丁度、入り口近くでカタログの入れ替えをしていたバイト君が、率先して声を掛けに行く。
一人目が引き金となったのか、次々と訪れてくる客。これまでなら誰よりも先に接客に出ていっていた恵美も、今日は社用PCの前で真剣な表情をしたまま動かない。ならば、と瑞希は気合いを入れてから首元のスカーフをきゅっと整え直して立ち上がる。
「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらでお伺いさせていただきます」
「あと、キャリア支給のブルゾンなんですが、あれって本社発注でしたよね? こちらも足りなくなった分を追加お願いします。――そうですねぇ、2枚あれば何とかいけると思います」
吉崎が持ち出したと思われるのは1枚だけだったはず……。ついでに古くなった分も交換してもらう気なのか、多めに言っている。
「――助かります。よろしくお願いします」
経理との交渉を終えて受話器を下ろし、ふぅっと長い息を吐いた後、恵美は瑞希の顔を見上げてニッと悪い笑顔を見せた。
「納品書をFAXする時、北町店分って大きく書いといて、だって」
「全部、向こう持ちに?」
「当然!」
このことを他店へ移動した前任が気付くのは、下手したら来月頭の実績集計後だろうか。当日の売り上げしか見ていない吉崎のこと、昨日の経費が書き換えられたことすら気付かない可能性が高い。
「恵美のことだから、てっきり吉崎店長に直接文句でも言うのかと思ってた」
ぽろっと本音を漏らす瑞希に、「私のこと、何だと思ってんの?」と恵美はケラケラと笑い返す。
「まさか。嫌でも月1は店長会議で顔合わせなくちゃいけないんだよ、揉めないに越したことはないわ」
申し送りもなく備品を持ち出したのは吉崎の方だ。責める理由はあっても責められる謂れは全く無い。けれど必要以上に敵対してしまっても良いことなんてほとんどない。古賀マネージャーが恵美を後任に指名した根拠は、おそらくこういうところにあるのだろう。
店の前を通る人の姿がちらほらと増え出して、本日最初の来客が店の中へと足を踏み入れた。丁度、入り口近くでカタログの入れ替えをしていたバイト君が、率先して声を掛けに行く。
一人目が引き金となったのか、次々と訪れてくる客。これまでなら誰よりも先に接客に出ていっていた恵美も、今日は社用PCの前で真剣な表情をしたまま動かない。ならば、と瑞希は気合いを入れてから首元のスカーフをきゅっと整え直して立ち上がる。
「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらでお伺いさせていただきます」