愛言葉を贈らせて
差し込む光が目に掛かり、微睡から意識が戻る。
いつの間にか寝てしまったらしい。
随分と温く、顔がなんだかこそばゆい。
状況を確認すれば・・・結空ちゃんや結羽に叱られるであろう状態となっていた。
藤堂君が私の胸に顔を埋め眠っている。こそばゆかったのは、彼のさらさら髪が顔を擽っていたからの様だ。
寒いのか、人肌恋しいのか、藤堂君は私を抱き寄せ、さらに胸に顔をくっ付けてくる。
熱もないのに、どんどん私の体温は上がっていく。
強引に引き剥がしたいが、相手は病人、手荒な手段は取れない。

「あの、藤堂君?」

静かに声を掛けてみたけど無反応。
仕方ない、脱出は諦めよう。
こうなったら、甘えるワンコの気が済むまでとことん付き合ってあげる事に決めた。
心を一旦冷静に落ち着かせる為に、息を吐き肩の力を抜く。
今の状況に理解が追いつけば、まず最初に気になったのは、彼の体調だった。
眠る藤堂君の前髪を払い、額に触れさせて貰う。
うん、大丈夫そうだ。良かった。
彼に触れたら、ちょっとだけ欲が出てきてしまった。
少しだけ、少しだけだから、許してね。
ちゅ、と彼の額に唇を当て、彼の頭を力無く抱き締めた。

「貴方が好きです」


*****


初めてしてしまった朝帰り。
何となく予想は付いていたけれど、結空ちゃんから大目玉を喰らった。

「で、朝ごはんは食べたの?」
「藤堂君の家で一緒に頂いて来ました」
「朔君はもう大丈夫なのね?」
「うん、今は微熱まで下がったかな」
「そう、なら良かった。念の為にもう一度確認させて、本当に朔君とは何も間違いは起こってないのね?朔君が良い子なのは十分知っているわ、でも朔君も男の子だからね、もしもって事をどうしても考えてしまうの」
「誓って有りません。あの、逃げる訳じゃ無いけど、お風呂入って来るね」

まだ説教が続きそうな結空ちゃんを振りきり、そそくさと着替えを取りに自室へと避難する。
藤堂君のベッドで寝てしまった事実は隠しておこう。
実は朝一で目を覚ました藤堂君からも注意を受けている。

『弱った男の頼みなんて簡単に聞き入れるな。まして一緒の布団で寝入るなんて以ての外だぞ』

と。親切にしたのに、叱られてちょっと納得いってない私です。

鞄から、掌に乗るくらいの瓶を取り出す。
それは藤堂君の部屋からお暇する際に、看病の礼の言葉と一緒に渡された物だ。
一日遅れのホワイトデー。
瓶の中には、沢山の表情を浮かべたニャンコ飴が詰められている。

「可愛くて、食べれないよ」


*****


結衣が結空から説教を受けていた丁度その時、朔は熱は下がったとはいえ、まだ怠さが残る体をベッドで労っていた。
思い出すのは、彼女の胸の柔らかさ、謙虚な口付け、そして小さく紡がれた言葉。

「・・・無防備にも程があるだろ」

実は、彼女が起きる数分前から意識は戻り、可愛い寝顔を堪能していたりした。


ホワイトデー体調不良ワンコ事件 終


*オマケの一頁漫画*

本編後。今更ながら、あのホワイトデーの日の事を、朔を問い詰めたくなった結空さん。
朔は、結衣と同衾してしまった事実を、あっさり白状し・・・。

皆それぞれ微妙に肝心な要点がズレてる。
結羽と多駕がこの場にもし居たら、朔は結羽に引っ叩かれてるし、多駕からは厳しい指導が入って居たと思います。
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