超貧乏でしたが御曹司に溺愛されて身も心も癒されました
「私も…玲一さんにはいつも何かしてあげたくなるんです。確かに贅沢させてもらっているお礼だと最初は思っていました。でも…玲一さんが。喜んでくれるから、いつも期待してしまって。玲一さんが喜んでくれたらいいな、ってそればかり思っていました」
 まりえはシャンパンを飲んだ。ここで逃げてはいけない、と自分に言い聞かせた。
「私も、玲一さんに惹かれています。…本当です」
 玲一は、そうか、と呟いて目を伏せた。
 
 まりえは、玲一がしてくれたこと、言ってくれたことで胸がいっぱいになってしまった。レストランを出ると、玲一は、もうひとつプレゼントがある、と言った。エレベーターに乗って最上階に行く。
 エレベーターの扉が開くと、大きなドアのある部屋があった。廊下にはドアが並んでいる。まりえは、ここが客室フロアだとわかった。
 玲一はさっと大きなドアをカードキーで解錠した。まりえに入るよう、促す。
 美しいソファの並んだ広々としたリビング。壁にある大きなクローゼット。テーブルには見事な花が活けられていてこの部屋のゴージャスさを増していた。
「玲一さん、ここは…?」
 なんだかとんでもない高級な部屋だということがわかる。
「スイートルームだ。君は俺の部屋だといつの間にか家事をしてしまうだろう?たまにはお姫様のように上げ膳据え膳で過ごしてみたらいい。朝になったら。ルームサービスを食べればいいし、早朝の掃除だってしなくていいから、寝坊だってできる。本当の自由を、味わってほしい。俺はもう、帰るから、ゆっくりするんだな」
「…玲一さん」
「ルームサービスのここのオムレツは最高だよ。ぜひ頼むといい。思い切り贅沢な一人の時間を楽しんで。じゃあ」
「玲一さん!」
 ほとんど、叫び声に近かった。まりえは、このまま玲一を帰させたら一生後悔する、と思った。
「玲一さんは、帰ってしまうんですか…」
「まりえ、美味しい食事をおごって、じゃあ、俺と、なんていうスケベオヤジと一緒にしないでくれよ。今日は、君にお姫様気分を味わってほしいだけなんだ」
「私が。礼一さんと、一緒にいたいのに?」
 さっき飲んだシャンパンが効いている。何を言っているのか自分でもわかっていない。
「礼一さんは、私に惹かれてるって言った…私、玲一さんのことが、好きだと思います。玲一さんを喜ばせたくて。嬉しがらせたくて。いつもそんなことばかり考えてるんです。教えてください。
恋するってこういうことなんですか?」
「…君は、今までの生活とは違うから、俺のことがよく見えるだけだ」
「違います。私は、玲一さんが好きなんです。大好きなんです」
 玲一は、じっとまりえを見つめた。
「契約結婚だからって、玲一さんのことを好きにならないように自分に言い聞かせてきました。でも…もう、無理です。私、自分の気持ちに嘘をつきたくありません」
「こんな部屋でそんなことを言って…自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
 まりえが、え、という間もなく、玲一は、まりえとの距離をつめ、まりえの顎を持ち上げた。
「…後悔するなよ」
 玲一は、まりえの唇を自分の唇で塞いだ。まりえは驚いて目を見開いたが、嫌ではなかった。
 角度を変え、唇をついばむ玲一のシャツの裾をつかんだ。何かにつかまっていないと倒れそうだった。
 食むようなキスは次第にまりえの唇をこじあけた。伺うように、ゆっくり、玲一の舌が入ってきた。玲一の舌とまりえの舌が触れた瞬間、まりえは身体に電流が走ったような快感を覚えた。
 何、これ…!
 わけがわからないなりに、舌をからめていると、どんどん腰のあたりが熱くなっていく。終わらないキスに、頭はずっとぼうっとしている。
 このキスの意味することをわかっていなかったけれど、キスはやめてほしくなかった。まりえは、自分の足の間が甘く溶けているのを感じた。だんだん、足に力が入らなくなっていく。
 思わず、玲一にしがみつくのと、数歩さがってベットに押し倒されたのが同時だった。
 体勢が変わっても、玲一はキスをやめようとしない。まりえも、自分でも無意識に舌を絡めていた。
 やっと唇が離れると、玲一はまりえに覆いかぶさったまま、耳や頬に軽いキスをしていった。首筋は強く吸われた。
 そして、ゆっくり、まりえのスカートの裾から玲一の手がはいってきた。まりえの身体は熱を帯びていて、玲一の指が太ももに触れただけで、反応した。
「あ…」
 まりえが思わず声を出すと、玲一がふっと身体を起こした。
「…これ以上したら、止められなくなる」
 まりえは、玲一の言葉の意味もわからず、ぼうっとしたまま、何とか半身を起き上がらせた。
「じゃあ、このスイートルームを楽しんで。お休み」
 玲一は、まりえの頭をぽんぽんと軽く叩いた。いつも玄関先でやるあれだ。
 まりえは。やっと我にかえった。
「はい…ありがとうございます…」
 まだキスの熱は冷めていなくて、潤んだ瞳で玲一を見てしまう。
 そうして、部屋を去る玲一の背中を見送っても、まりえはベットの上で身動きできなかった。
 こんなに熱いキスは生まれて初めてだった。
「今日…眠れるかな…」
 胸の鼓動がうるさかった。落ち着きたくてぎゅっと枕を抱きしめた。

 ホテルでの贅沢な朝食までいただき、まりえは玲一の部屋に戻った。玲一はもう出勤していた。
 まりえは部屋着に着替えると、早速、掃除や洗濯を始めた。
 何かしていないと、昨日のキスのことばかり考えてしまう。
 私、玲一さんについ、好きだって言っちゃったんだ…
 改めて考えると、恥ずかしいし、何よりルール違反な気もする。玲一としているのは契約結婚で、お互いを干渉しない決まりだったはずだ。
 干渉どころか、好きって…驚いたよね、きっと。
 そして、あのキス。
 告白したら、キスされたって…どう考えたらいいんだろう。
 自分のことを好きだと言うから、キスくらいしておくか、そんな感じ?
 でも、玲一の性格からしたら。そんな軽はずみなことはしないと思う。
 かと言って、じゃあ本気のキスだったのか、というとその決め手もない。
 
 まりえはウェディングプランナーの勉強が手につかなくなってしまった。ぐるぐると玲一のことを考えてしまう。
 ところが、問題はあっけなく解決した。キスが日常になったのだ。
 まりえが夕飯後の洗い物をしているとき、背後から抱きしめられた。まりえが戸惑っていると身体を反転させられキスされた。
 お互いの寝室に行く前に、長いキスをされたこともある。
 玄関先で頭ぽんぽんをされる時に、軽いキスをされることも。
 とにかく、ちょっとしたタイミングでキスするようになった。
 
 玲一さんのキスは嬉しい…大事にされてる気がする。
 そして、新たな問題が浮上した。自分でも驚いているのだけれど、もっとキスしたい、と思ってしまうのだ。
 自分にそんな一面があるなんて知らなかった。
 でも、玲一のキスは巧みで甘く、つい反芻してしまう。
「私、どうしちゃったんだろう…」

 翌日。珍しく、玲一が夕方に帰宅した。
「おかえりなさい。早かったですね」
 まりえは、ウェディングプランナーのテキストを閉じて、夕飯の用意をしようとキッチンへ向かった。
 リビングのソファに座った、と思っていたのに、玲一は、いつの間にかキッチンに来ていた。
「まりえ。なんか…勉強が進んでないように見えるけど?」
 玲一は、テキストと一緒においていたノートをめくって言った。書き込みがあるのは最初だけで後は白紙のページが続く。
 まりえは、かあっと頬が赤くなった。玲一は、不思議そうな顔をした。
「ウェディングプランナーじゃなくて、他の仕事がよくなったのか?」
「いえ、そんなことは…玲一さんが…そのキ…キスをしてくるから、どういうことかわからなくて。
 どういう気持ちでしてるのかなって…そんなことをぐるぐる考えてしまって」
 はっきり言葉にすると、ものすごく恥ずかしかった。しかも、玲一のキスにはまっていて、いつも反芻している秘密だってバレそうだ。
「どんな気持ちって…したいからしてるだけだ」
「そ、そんなのずるいです。答えになってない。玲一さんの気持ちが知りたいんです」
 玲一は、、ふっとネクタイを緩めた。
「俺の気持ちか。俺の気持はどんどん欲張りになっている。最近、キスだけじゃ、物足りないんだ。もっと…もっと君のすべてが知りたいんだ。嫌ならそう言ってくれていい。だが俺がそういう気持ちでいるのはわかってほしい。君がその気になるのをまつよ」
 まりえは、礼一に、性急さがないのがないのがうれしかった。自分の気持ちを尊重してくれるのに安堵した。
 でも、それでいいの?私の気持はもう、すっかり膨らんでしまってるんじゃないの?
「私…玲一さんに、もっと触れてほしいと思って……います」
 心臓がバクバク言っていた。のどがカラカラだ。はしたないと思われてしまうかもしれない。でも、それでもいい。自分に嘘をつきたくなかった。
 玲一は、驚いた顔をして、ゆっくり、まりえの側にやって来た。
「君は、本当に俺を驚かすのがうまいな」
 玲一の顔は真剣だ。そっとまりえを抱きしめた。
「後悔しないか。俺は、君を抱きたい」
 まりえは、ドキドキしていたが、嫌なドキドキではなかった。思い切って、こくりとうなずいた。
 いいんだな、と玲一が、言うのと同時に、まりえの身体をふわりと抱えあげた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
「君の部屋がいいかな。落ち着くだろうし」
 迷いのない足取りで、玲一がまりえの部屋に向かって行く。気が付くと、もうベッドの上に横たえられていた。
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