超貧乏でしたが御曹司に溺愛されて身も心も癒されました
 まりえは、緊張しながらも、覚悟を決めた。目を閉じると、玲一の優しいキスが始まった。食むようなキスが続いたが 次第に深くなっていく。ブラウスは、難なく脱がされ、ブラをずらし、胸の頂きにキスされたときは、甲高い声を出してしまった。玲一は、味わうように体のいろんな場所にキスを落としていく。まりえの身体は、どんどん火照っていった。
 快感に翻弄されていると、不意に足の間に指を突き立てられた。
「あっ…!」
 思わず大きな声が、出てしまった。玲一の指は、容赦なく責めてくる。まりえは、手で口を塞いだ。あまりにも気持ちよくて大きな声が出そうだった。
 やがて玲一と一つになった。まりえは、初めてだったが、玲一の優しいリードで、痛みは、最初しか感じなかった。それよりも結ばれた実感にじわりと涙が目元に、にじんだ。
 ことが終わった後、肩を並べてベッドにいると、玲一が言った。
「きつくなかったか?」
「はい。大丈夫でした。でも…気になるところが、あって」
「うん?」
「私の母のこと、話ししましたよね。バーテンダーに振りまわされて入れ込んでたこと。私、、自分も男の人にはまってしまうんじゃないかって…少し怖いです」
「まりえは、大丈夫だろう。お母さんのことは断片的にしか知らないけれど、君とは全然
 違うと思う。安心しろ」
「そうだといいんですが…」
「逆に俺は押し倒されても嬉しいけどな」
「な…何言ってるんですか。そんなことしません」
「そうか?俺としては、これからもこんな風に、君を抱きたいんだが」
 まりえは、頬がぽっと赤くなった。
「よ、よろしくお願いします…」
 ぶはっと玲一が笑った。
「仕事じゃないんだから。でも、まあわかった。よろしくな」
 そうして。週の半分、まりえは玲一と身体を重ねるようになった。ことが終わると、互いの子供時代の話や、学生時代の話で盛り上がることが多かった。
 少しずつ玲一のことを知っていけている。そのことに、まりえはとても満たされるのを感じていた。
 それでも。やはり契約結婚であることに違いはないので、玲一と得恋したと思い過ぎないようにしよう、と自分に言い聞かせる。
 昼間はそう決意するのだが、夜、玲一には抱かれていると、そのことを忘れそうになる。
 玲一さんは、どう思ってるんだろう…
 まりえは、はっきりと玲一のことが好きだと言った。しかし、玲一からは聞いていない。「惹かれた」ぐらいだ。
 そこを踏み込めたら、とも思うけれど、玲一がまりえを好きじゃないパターンも考えておかなくてはいけない。
 それは結構、シビアできついことだった。
 しかし、夜の甘い記憶をたどると、だんだんそんなマイナス思考も消えていく。
 そんな安心感が手伝って、ウェディングプランナーの勉強も、ちゃんとこなせるようになってきて、ほっとしていた。
 結局、なんていうか…宙ぶらりんの関係、なんだわ。
 玲一との関係の曖昧さを、自分から突き止めることはできない。
 玲一から、好きでもなんでもない、という言葉を聞いてしまったら、打ちのめされて立ちあがれなくなりそうだ。
 私からは、動けない。せめて、玲一さんとの甘い時間を大切にしよう…。
 そう自分に言い聞かせて、まりえは勉強に戻った。

「まりえちゃん、もう課題、できたあ?」
「うーん、半分くらいかな」
「うっそ。わたし、まだ全然だよー。どうしようかなあ」
 美佳は、さらささらのストレートヘアをかきあげて言った。美佳はウェディングプランナーの専門学校で初めてとった講義で隣の席だった子だ。人なつっこく、その日の終わりには、明日もお弁当一緒に食べようね、と言われた。
 美佳は二十歳で、まりえよりも四つも年下だが、屈託なく、憎めないタイプだ。まりえは学生時代からクラスの隅にいたタイプだったので、華やかな美佳が慕ってくれるのに最初は驚いていた。少し時間がたつと、明らかに学生時代よりも人から声をかけられることが多くなった。その服どこで買ったの、とか口紅どこの使ってる、とか他愛ないことばかりなのだけれど、それでもステージの上にひっぱりだされた感があって戸惑っていた。そして、玲一が買ってくれた服を着ていることや、百合からもらった化粧品でメイクを練習したことの結果が出ているのだとわかった。
 こんなに見た目で変わるものなのね…
 まりえは心の中でそう呟いたが、実際変わったのは、見た目だけでもなかった。外見に引け目を感じなくなった分、行動やふるまいに余裕が出てきたのだ。
 それを感じて専門学校のクラスメートたちもまりえに話しかけやすかった、ということらしい。
 まりえは勉強についていくことに精一杯だったが、想像していた以上に、学校に行くことが楽しくなった。クラスメートとわいわいやれるなんて想定外だったので、嬉しい誤算だった。
 バイトがあるという美佳と学校の門の前で別れた。
 今日も玲一の帰りは遅いので、慌てて帰宅することもない。まりえは最近の趣味になりつつあるウィンドーショッピングをして帰ることにした。専門学校は、駅の近くにあるので、ぶらりと見て回る店には事欠かない。
 前は、こんなこと、できなかったなあ…
 結婚前のまりえは、ほしくなるのがわかっているので、いつもできるだけ店の中を見ないようにして歩いていた。ほしくなっても買うお金はない。それなら見ない方がいい。そう思っていた。今はお財布にお金が入って入る。率先して使うつもりはないけれど、頑なに店を避ける必要がなくなった。
 玲一さんに感謝しないとね…
 駅に近づいた交差点で信号待ちをしていた時のことだった。
「あれ、まりえちゃんじゃない?」
 不意に声をかけられて、振り返ると、そこには玲一の親友、大滝がいた。
「こんにちわ。先日はありがとうございました」
「いやいや。仕事の帰り?」
「いえ学校帰りです」
「ああ、ウェディングプランナーの?そっか、言ってたもんね」
 大滝が自分のことを覚えていてくれたのを嬉しく思っていると、
「ねえ、ちょっと話が見えないんだけど」
 大滝の連れの女性が言った。とっさに大滝の彼女だろうか、とまりえは思った。
「なんだよ、言ったろ、玲一の結婚相手だよ。まりえさん」
「え」
 女性は怪訝な顔をした。それから、まりえのつま先から頭のてっぺんまで、なめるようにじっくりと見た。
 まりえは不躾な視線に面食らった。女性は、派手なタイプだった。ピンクのスーツの上下を着て、耳に大きなイヤリングをしていた。アイメイクが濃くて、髪の毛は明るい茶髪の巻き髪だった。
「玲一と。そうなの」
 そう呟くと、女性はころりと表情を変えた。
「ごめんなさい。お祝いの言葉が遅れたわね。ご結婚おめでとうございます。玲一と仲良くしてね」
 にっこりと微笑む。派手な分、笑うと薔薇が咲き誇るようなゴージャスさがある。
「は、はい。ありがとうございます」
「私、築島ルイと言います。玲一とは、高校で一緒だったんですよ。なんやかんやと玲一をひっぱりまわしていたのが私です」
「はあ…」
 そうか、仲がよかったのか、と少しほっとする。最初の視線は敵を見るようだったので、玲一のことも悪く思っているのかと心配していたのだ。
「まりえさん、今度お茶しません?玲一とのなれそめとか、聞きたいなあ」
「あの、お見合いだったので、そんなになれそめとかは」
「お見合い?」
 またルイがきつい目をする。ころころ表情が変わる人だ。
「えっと…」
 まりえが困っていると、ルイがまた表情を変えた。
「そんなの、いいのよ。私、まりえさんと仲良くしたいの。ね、連絡先交換しましょう」
 玲一の友人なわけで、断る理由を見つけられない。しかも、最近まりえはクラスメートと親しくしていたので、スマホで連絡先を交換するのも慣れてきていた。
 別に、これくれらい…いいよね?
 まりえは。ためらいをふりきって、ルイと連絡先を交換した。大滝が笑いながら言った。
「読めたぞ、ルイ。お前、高校時代の玲一の情けないエピソードをこっそりまりえさんに教えるつもりだろ」
「そうなのよ。玲一が普段すかして言わないようなこと、教えちゃうんだから」
 ルイも笑った。なんだか、明るく笑い飛ばせるようなことらしい。まりえは、笑顔で二人と別れて帰宅した。

「でね、美佳ちゃんが、それはおかしいって怒っちゃったんです」
 まりえが、玲一が食べ終えた夜食の食器を片付けながら言った。
「ああ…うん」
 玲一は、心ここにあらず、という感じで返事をした。
「玲一さん?ごめんなさい。お疲れでしたよね」
 つい今日あった楽しかった美佳とのことをしゃべってしまっていた。仕事を遅くまでしていた玲一には、興味のない話題だったかもしれない。
「いや…美佳ちゃんだっけ、日に日に仲良くなっているな。まりえが楽しそうで何よりだよ」
「はい。玲一さんに学校に行かせてもらっているおかげです」
「うん…」
 また考え込んでしまう。
 仕事の悩みとかだろうか。こんな玲一さんは初めて見る…。
 そう思った瞬間、まりえのスマホにメッセージの着信音がした。
 美佳かな、と思ったら違った。ルイからだった。
『まりえさん。さっそくですが、週末、お茶しませんか。いろいろおしゃべりしましょう』
 まりえは、玲一を振り返って言った。
「玲一さん、今度の週末って忙しいですか?」
「ああ、岡田さんの息子さんの結婚式があるけど。友達に誘われたのか?行ってくるといい」
 友達、ではないんだけど。
 まりえは、今日ルイと会ったことも話したかった。しかし、今夜の玲一はそれどころではなさそうだ。
 とりあえず、週末外出はできるわけで。
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