キミのために一生分の恋を歌う
1. 出会い
私はいつも臆病だった。
踏み出すことが怖くて、でもこの気持ちを失ってしまうのはもっと怖くて。
私には夢がある。
いつかあの人にまで届くような、歌を歌うこと。
歌う度、辛くて苦しいけれど私の心の中心にはいつもあの人がいる。
だから夢を叶えるために頑張ろうと思った。
この夏だけにきっと一生分の幸せを詰め込んだっていい。
神様どうかお願いします、私の夢を叶えてください。
「ねぇねぇアレもう聴いた!? bihuka(ビフカ)の新曲」
「昨日あがったやつだよね、聴いたよ! 今回も神すぎる〜」
「もう100万再生されてるよ。あ〜生で聴きたい!」
「一度も姿現さないんだもんね〜でも絶対可愛い子だよ!」
ここは渋谷のスクランブル交差点。
大きな液晶に表示された謎の少女のシルエットには、透明感のある歌声がのっていた。
その映像を指差しながら、通学中と思われる制服を着た女の子達がキャピキャピとbihukaについて話し、私の前を通り過ぎる。
(まさかbihukaがこんな日陰女子なんて気付くわけないよな〜)
私は女の子たちの行く先を横目で追いつつ、歩き出す。より顔が隠れるようマスクの位置を直しながら、一応帽子を深く被り直す。
今日も空がきれい。
これから更に暑くなりそうな、夏の朝。
私は緩めのスウェットを着て、日課の散歩をしていた。
家を出て渋谷のスクランブル交差点を通って、代々木公園へと向かうコースだ。
都会は人が多いから空気はそんなにおいしくないけど私にとってはこれが日常だ。
でも今日は少しだけ違う。bihukaの話が聞こえて少しどきりとした。
最近の少女たちの話題の中心、bihuka。
彗星のように現れた歌手。
今にも消えてしまいそうだけれどそれ故に瑞々しい青春を歌う歌詞と、それに乗るキャッチーな音楽。
そして誰をもの心をひきつけて離さない唯一無二な歌声。
一切顔は出さずに、SNSサイトにのみ動画を上げている謎の少女は最初の曲を上げてからたった数ヶ月で、話題映画の主題歌に抜擢された。今やbihukaの広告はあらゆるところに表示され、テレビや雑誌でも特集が組まれる人気ぶりだ。
まるで、私が私でないみたい。
と、この歌を歌う美深小夏(びふか・こなつ)本人は思う。
歌うことは大好き、私の生きる意味そのもの。
でもまだ自分を取り巻く周囲の変化には心が追いついていなかった。
「ゴホッゴホッ」
もしかしたら正体がバレちゃうかもって緊張したからか、咳が出てくる。
しかしこれもいつものことなので、わずかに息苦しさを覚える胸を抑えながら私は公園へ向かう路地へと入った。
踏み出すことが怖くて、でもこの気持ちを失ってしまうのはもっと怖くて。
私には夢がある。
いつかあの人にまで届くような、歌を歌うこと。
歌う度、辛くて苦しいけれど私の心の中心にはいつもあの人がいる。
だから夢を叶えるために頑張ろうと思った。
この夏だけにきっと一生分の幸せを詰め込んだっていい。
神様どうかお願いします、私の夢を叶えてください。
「ねぇねぇアレもう聴いた!? bihuka(ビフカ)の新曲」
「昨日あがったやつだよね、聴いたよ! 今回も神すぎる〜」
「もう100万再生されてるよ。あ〜生で聴きたい!」
「一度も姿現さないんだもんね〜でも絶対可愛い子だよ!」
ここは渋谷のスクランブル交差点。
大きな液晶に表示された謎の少女のシルエットには、透明感のある歌声がのっていた。
その映像を指差しながら、通学中と思われる制服を着た女の子達がキャピキャピとbihukaについて話し、私の前を通り過ぎる。
(まさかbihukaがこんな日陰女子なんて気付くわけないよな〜)
私は女の子たちの行く先を横目で追いつつ、歩き出す。より顔が隠れるようマスクの位置を直しながら、一応帽子を深く被り直す。
今日も空がきれい。
これから更に暑くなりそうな、夏の朝。
私は緩めのスウェットを着て、日課の散歩をしていた。
家を出て渋谷のスクランブル交差点を通って、代々木公園へと向かうコースだ。
都会は人が多いから空気はそんなにおいしくないけど私にとってはこれが日常だ。
でも今日は少しだけ違う。bihukaの話が聞こえて少しどきりとした。
最近の少女たちの話題の中心、bihuka。
彗星のように現れた歌手。
今にも消えてしまいそうだけれどそれ故に瑞々しい青春を歌う歌詞と、それに乗るキャッチーな音楽。
そして誰をもの心をひきつけて離さない唯一無二な歌声。
一切顔は出さずに、SNSサイトにのみ動画を上げている謎の少女は最初の曲を上げてからたった数ヶ月で、話題映画の主題歌に抜擢された。今やbihukaの広告はあらゆるところに表示され、テレビや雑誌でも特集が組まれる人気ぶりだ。
まるで、私が私でないみたい。
と、この歌を歌う美深小夏(びふか・こなつ)本人は思う。
歌うことは大好き、私の生きる意味そのもの。
でもまだ自分を取り巻く周囲の変化には心が追いついていなかった。
「ゴホッゴホッ」
もしかしたら正体がバレちゃうかもって緊張したからか、咳が出てくる。
しかしこれもいつものことなので、わずかに息苦しさを覚える胸を抑えながら私は公園へ向かう路地へと入った。