キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
逢坂(おうさか)大学病院前のバス停でいつものようにバスを降りた。
私はこの病院に物心つく前からずっと通っている。小さい頃はどっちが家なのか分からないほど入退院を繰り返していた。
入り口の自動ドアが開くと、広くて大きなロビー。午前中よりは空いているけど、たくさんの人たちが忙しなく動き回っている。

ただただ清潔で、白にまみれた不変の世界。こんなに広いのに息苦しいほどに狭く、この先はどこにも繋がっていない気がする。
それがいつもの病院のにおい、空気。
音楽の世界にいる私はどこまでも行けるような気がするのに、ここに居ると私は立ち止まってしまう。縛り付けられる。それがとても怖いんだ。

「あ、時間……」

自分を何とかこの世界に慣れさせようと独り言のように呟く。
そして手馴れた手つきで診察券を専用の機械へと通すと、予約時間と名前、診察室への案内番号などがプリントされた紙が出てくる。

『14時予約 呼吸器内科 第1診察室 担当医:諏訪野』

いつものように軽く確認したつもりが、担当医の名前を見てアレ? と思う。
私の主治医はこれまでずっと加藤先生という、優しい女性の先生だった。先月の予約の時、先生が変わるなんて話は全然聞いてない。
きっと間違えちゃったのかな。

「それに諏訪野って……まさかね」

とにかく受付で間違いかどうか確認しようと、私は呼吸器内科の外来へと向かった。
< 10 / 62 >

この作品をシェア

pagetop