キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
ノックして数秒後、
「どうぞー」
と声が聞こえたので、そのまま診察室のドアを開けて入る。
そこにはもちろんあの諏訪野さん……いや諏訪野先生が居た。
あの時風になびいていた髪は軽く固められ、メガネじゃなくてコンタクトだし、ジャージじゃなくて白衣になっているけど。
それでも間違いなく、諏訪野さんだ。

「こんにちは。よろしくお願いします」

そう言って私が先生を見つめると、先生は変わらない笑顔で椅子に腰を掛けるよう促した。促されるまま、椅子へと座る。なんか距離が近い。顔が熱くなって、俯いてしまう。

「今日から担当になりました。諏訪野 晴です。よろしくね。と言っても2度目ましてかな、美深……小夏さん?」
「あら、先生。小夏ちゃんとは知り合いだったんですか?」
私がひたすらあわあわしてると、言葉を挟んだのは、昔から知り合いの看護師さんの高瀬(たかせ)ゆかさんだ。

「うん、ちょっとね。美深さんと2人で少し話したいことがあるから高瀬さんはもう下がってもらってもいいよ」
「知り合いなら安心だね、小夏ちゃん。またね」

下がっていくゆかさんに軽く手を振り返すと、何故か頑張ってのポーズをしながらゆかさんは奥の部屋へと消えていった。

「さてと。聞きたいことが沢山あるんだけど」
「他人の空似です!! 珍しいですよね、bihukaなんて苗字が被るなんて」

ハッキリと断定されてしまう前に私は先手を打つことにした。
< 12 / 62 >

この作品をシェア

pagetop