キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
ハァと諏訪野先生は溜め息をついてから、私の目をじっと見つめてくる。試すようなあの時と同じ瞳。
「……他人の空似ってこんな珍しい苗字、僕は他に知らないし無理があると思うんだけど」
「でも、私じゃないから!」
私が歌手のbihuka本人であることは、小春しか知らない。他の家族にだって、すみちゃんにすら打ち明けていないのだ。
だからいくらあの時助けてもらった恩があるとは言え、諏訪野先生に本当のことを教えるわけにはいかない。
お願いもう詮索しないで。そう強い思いを込めて、先生の目を見つめ返す。膝の上に握っていた手はブルブルと震え、冷たい汗をかいていた。
「ーー分かったよ。小夏ちゃん。でもこれだけは嘘をつかずに教えて欲しいんだけど、歌うときに本当はすごく苦しいんじゃない?」
「ーーッ!!」
「君のカルテに全て目を通したけど、君の身体はあんな声量で伸びやかに歌える状態じゃないんだよ。もう歌ってはダメだ」
やっとbihukaのことを見逃してくれたと思ったら、今度は私が一番言われたくないことを言われてしまった。
「それは……それだけは、できません。私にとっては死ぬより辛いことだから!」
私は椅子から立ち上がって、バタンと大きな音を立て診察室から飛び出した。
諏訪野先生から、いや現実から目を背けるように私はただ走った。
後ろから諏訪野先生の声が聞こえた気がしたけど、振り返らなかった。
だから病院なんて、病気なんて、全部嫌なんだ。
いつも私の人生の邪魔をする。
一番大切なものを奪おうとするんだ。
私はただあの人のために歌っていたいだけなのに。
「……他人の空似ってこんな珍しい苗字、僕は他に知らないし無理があると思うんだけど」
「でも、私じゃないから!」
私が歌手のbihuka本人であることは、小春しか知らない。他の家族にだって、すみちゃんにすら打ち明けていないのだ。
だからいくらあの時助けてもらった恩があるとは言え、諏訪野先生に本当のことを教えるわけにはいかない。
お願いもう詮索しないで。そう強い思いを込めて、先生の目を見つめ返す。膝の上に握っていた手はブルブルと震え、冷たい汗をかいていた。
「ーー分かったよ。小夏ちゃん。でもこれだけは嘘をつかずに教えて欲しいんだけど、歌うときに本当はすごく苦しいんじゃない?」
「ーーッ!!」
「君のカルテに全て目を通したけど、君の身体はあんな声量で伸びやかに歌える状態じゃないんだよ。もう歌ってはダメだ」
やっとbihukaのことを見逃してくれたと思ったら、今度は私が一番言われたくないことを言われてしまった。
「それは……それだけは、できません。私にとっては死ぬより辛いことだから!」
私は椅子から立ち上がって、バタンと大きな音を立て診察室から飛び出した。
諏訪野先生から、いや現実から目を背けるように私はただ走った。
後ろから諏訪野先生の声が聞こえた気がしたけど、振り返らなかった。
だから病院なんて、病気なんて、全部嫌なんだ。
いつも私の人生の邪魔をする。
一番大切なものを奪おうとするんだ。
私はただあの人のために歌っていたいだけなのに。