キミのために一生分の恋を歌う
3. 晴れの日
『COLORS』
蝶々が飛んで ひらひらと撫でていく
わたしの心
あの世界から 還って来たんだね
「おかえりなさい」と私は笑ったーー
そこで止まる歌詞。
この歌だけは、未完成なまま歌えないでいた。
それは3年前の夏の日のことだった。
頭で思い描いた音が、病気のせいでちゃんと出てくれなくなった。
そんなことはこの時が初めてで私は恐怖に震えた。
日が経つほどに声が震え、音程がずれて、抑揚もつけづらくなっていった。
気のせいだと思っても、段々と悪化していく。
歌うだけで息苦しくなるようになった。
『これ以上ないくらい大事なものを奪っておいて。どうして!! どうしてよ!! 私から歌まで奪わないでよ!!』
涙が枯れ果てるほど泣き叫んでも、誰も助けてはくれなくて。
それでも、私は歌うのを諦めることができなかった。
私の心の中にはこんなにも音楽が溢れて、今も響いているのに。
お願い、神様。
どうか私からもう何も奪わないで。
1分1秒でもいい、今もまだ聴こえるあの歌をあの人に届けたいの。
突きつけられた現実に、目を背けていたくて、私はこの歌を未完成のまま誰にも見せることなく心の箱の中に閉じ込めた。
翌朝、眩しい光が部屋に差し込み、私は涙を流したまま目を覚ました。
「またあの夢かーー」
身体を起こすとまだ昨日起こした発作のせいか、だるさが残っている。
朝の7時過ぎ、涙を拭って私は無理やり笑顔を作った。リビングで小春に会う前に気持ちを立て直さないと。