キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
朝食をとり薬を飲むと、今日は私服に着替えた。
白いシャツに紺色チェックのミニスカート。
ウォーキングに行かない分、時間はゆっくりあるからメイクも頑張った。髪もゆるく巻いて、少しでも可愛く見えるように気合を入れた。
できれば、昨日より今日、もっと私のことを魅力的だと思って欲しい。

「ほんと、いつの間にこんなに……」

私は独り言のように呟く。
気がつくと私、諏訪野さんのことばかり考えてる。
自分のことより諏訪野さんだったらどう思うのかなとか、今何してるのかなとか。
できたら、私が思うくらい諏訪野さんも私のことを考えてくれていたらいいのに。
苦しいだけじゃなくて、楽しくて嬉しい。
この気持ちごと宝箱に入れておければいいのに。

諏訪野さんから借りた上着を着て、玄関を出る。
いつものようにバスに乗って病院前で降りる。

診察券を通して処置室まで行くと、ネブライザー治療を受ける。ほんの10分間が長く感じた。
ネブライザーが終わると、呼吸器内科の外来受付へ。ぴったり10時だった。

待合室の椅子にはたくさんの人が座っていたけど、諏訪野さんの診察室の前には今日はほとんど誰も居なくて。
多分教授とかそういうえらい先生が診ている日なんだろう。
そんなことをぼーっと考えていると、自分の番号が呼ばれて診察室の中へ入る。

「おはよう~」
「小夏ちゃん、おはよう」
「おはようございます」

いつもと同じ、諏訪野さんとゆかさんと。
まだ、医者の諏訪野さんの前に座ると緊張する。
黙ったままでいると、諏訪野さんに指を出すよう言われ酸素濃度を測る機械を付けられる。異常はないみたいだ。

「うん。今日は顔色いいね」
「よく寝て、よく食べ、薬を飲みました」
「完璧だね。じゃあ聴診もしよう」

昨日と同じようにじっくりと長めの聴診。
それを終えるとパソコンへ手を伸ばす諏訪野さん。
何を書いてるのかはちっとも分からない。

「音はね。少し怪しいとこもあるけど、今日無理しなきゃお友達と明日お出かけしていいよ」
「ほんとですか? やった〜」
「え〜小夏ちゃんどこ行くのー?」
「すみちゃんとプールだよ」
「いいね楽しそう!」

ゆかさんは私も夏休み欲しい〜とつぶやいていた。大人って大変だ。

「小夏、薬はちゃんと飲んでね。昨日から薬増えてるけど何か変わったことない?」
「うーん。ちょっとだけ気持ち悪い感じはあります。でもいつもこんな感じかな」
「そっか。無理しちゃだめ。我慢できないくらい?」
「やだなーとは思うけど」
「一応、吐き気止めも出しとくからしんどくなったら飲むんだよ」
「分かりました」

じゃあ今日はこれで終わりだから、気を付けて帰って家でよく休むことと、念を押されて私は診察室を出る。
確かにすみちゃんとゆっくり話をするためにも明日に備えなくちゃと、私は改めて気合を入れ直した。
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