もう1人の自分が恋をしたあなたは、もう1人の自分を持っている
どうやら身長の高さ、見た目から大学生くらいだと思ったらしい。
たまたま休日に一人で家の近くをフラフラ散歩していただけだった。


「君、興味ないかい?」


如何にもなセリフ。
怪しい気配はしたものの、私は目の前のサングラスをかけた男性から1枚の紙を受け取る。


「芸能事務所、直結…コンセプトカフェ?」

「このアイドル知ってるかい?」

「…知ってる。」


当時テレビで見ない日は無いくらいに人気だったアイドル。
その才能を見抜いてスカウトしたのが、目の前のこの人だった。

(あまりにも怪しすぎて後々調べたら、本当だったんだ…)

そして今となってはなんだけど、芸能事務所直結というのは本当で、ここを卒業して元敏腕マネージャースカウトマンの事務所で役者やモデルをしている人も多くいた。


「ごめんなさい。私、中学生です!」

「……え!?」


中学生を間違えてスカウトしたことは、今となっては働くスタッフの中での鉄板笑い話となっている。



「それじゃ、困ったらここに連絡して。君を助けられるかもしれない。」



踵を返し、ヒラヒラと手を振りながら去っていく背中。
まさか1年後に本当にお世話になるなんて…
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