もう1人の自分が恋をしたあなたは、もう1人の自分を持っている
教科書などを入れていたラックの奥。
私はあの紙を捨てられずにいた。

なぜなのかは分からない。

きっと未来でこうなることを知っていたのか。


あの人には覚えてない、って言ったけどしっかりと幼いながら記憶に残っていた。


お葬式のあの場。
大人の私を煙たがるような視線。


そしてあの人の視線だけは、汚い大人たちの中に一筋の光が刺すようなあの…


きっと似ていたんだろう。



私はその紙に書いてあった番号に電話をかける。

1年前。
覚えていないだろう。


『もしもし…どうしたの!?』


その人がそう問うのも仕方がない。
私の目からは、何かがぷつりと切れたように、大粒の涙が零れて行くのだから。


『大丈夫だよ…この後、来れそう?』

「はいっ…」


私はスマホと財布だけを持ち、電車に揺られた。

なんでなのか、ここに戻ってくることはもう無いのだろう。


そう思った。



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