もう1人の自分が恋をしたあなたは、もう1人の自分を持っている
私は初めてこの街を降り立ち、そして地図を頼りにお店を探す。

少し歩くな…と涙も枯れ果て、疲れきった顔で渋々歩く。


歩いて約10分。
その店の前には、1年前にこの紙を渡してきたあの人が立っていた。


「君か…」


サングラス越しで横目で私の顔を見るなり、その人はにこりと微笑む。
そしてサングラスを外した。


「て、テレビでみた、ことあるっ」

「あぁ…、ごめんね。分かる?」


それこそ昔の(といっては失礼か…)アイドル。今では"イケおじ"という感じで。
確かに、もう引退というか随分見ていないというか…


「輝夜、姫…」

「なんで私の名前を!?」


唐突に呟かれた言葉に私はさっきまでの泣き腫れた目を丸くする。
その反応に目の前の人も驚く。


「いや、綺麗な黒髪、清楚な顔立ち、から連想してね」

「私、輝夜って言います!」

「本名?」

「本名です!」


目の前の人は高らかに笑う。


「それじゃあ、君は今日から姫ちゃんだね!」

「私が…姫?」



その日から私は『姫』という別の名前を貰った。

冬休みが終わる頃、いつの間にあの人がいろいろしてくれていたのだろうか。


1人で住む家、転校する学校、諸々の手続き。



「ここまでしてもらって、感謝しても仕切れません。」

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