もう1人の自分が恋をしたあなたは、もう1人の自分を持っている
冬休み最終日。
この店への初出勤日を明日に控え、私は開店前にその人に深々と頭を下げた。


「大丈夫だよ。それは大人の役目だよ。」

「だからといって…」


家族でもないのに。



「家も、学費も何も心配はいらないよ。普通に働いて欲しいだけだから。」

「無理です。申しわけなさすぎます。せめて生活費と学費は自分で…」


「じゃあこの店をたくさん盛り上げてね」


そして私の話を遮って、あの時みたいにヒラヒラと手を振りその人はわたしから遠ざかる。


私は誰からも必要とされない人間だった。
家族だった人も、どんな理由があってなのだろう。私を引き取ってくれたのは。


"白銀 輝夜"


そんな人間を必要としてくれて、愛してくれた人はいたのだろうか。

それなら別の人に生まれ変わればいいのか。

もう一度、全てをやり直してみても、良いのだろうか…



「あのっ!」



サングラスをかけたあの人は振り返る。




「名前、…呼んでください。」



「姫」



私は、"輝夜 姫"だ。



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