隣人はだらしない‥‥でも
隣の家のドアから顔を出しているのは
山岡さんなのは分かる。


それよりも、目の前の綺麗な女性が、
山岡さんの頬に手を触れキスを
していたことだ。


羽織っただけの白シャツは前がはだけ、
素肌が露わになり、下はボクサーパンツ
のみの上司の姿を見ていられず
背を向けて俯いた


『ふふ‥リップ付いちゃったわ。
 楽しかったわ、また呼んで。』


「ん‥‥俺も。」


耳を塞ぎたくなるような会話に
もう一度部屋に入れば良かったと
すごく後悔する


恋人がいるならやっぱりあんなこと
しちゃいけないのに、山岡さんが
よく分からない‥‥


女性が階段を降りていく足音が
遠ざかり山岡さんの部屋のドアが閉められた音に安心して振り向くと静かに
溜め息を吐いた。


はぁ‥‥朝からすごいものを
見てしまった‥‥。
どう考えても事後のようなその姿に
頭の中に残る残像を振り払う


それより、山岡さん隣に住んでるの?
それとも事務所とか?


週に一度掃除することを約束して
しまったけど、彼女がいるのに
家に入って相手の方はいい思いは
しないはずなのに‥‥‥


ガチャ


えっ?


『おはよう、細川さん。』


「えっ?あ、おはようございます‥」


出てこなくていいのに、わざわざ
服のボタンを閉めなおして、下も
ちゃんと履いている姿で、何事も
なかったかのようにニコっと
笑いかけてきたので苦笑いが出る


『朝からおでかけ?』


「は、はい!そうなんです。
 山岡さんはゆっくりされて下さいね。
 お疲れのようですから。」


『えっ?俺?‥‥あっ‥‥もしかして
 さっきの見られちゃった?』


ドキン


「いえ、何も見てませんから。
 すみません急ぎますので失礼します」


見てたらなんだと言うんだ?
だいたい誰かに見られる可能性が
あるなら部屋の中ですればいいのに。


ペコっと頭を下げて、山岡さんの
前を通り過ぎると、香ってきた
ラベンダーのような香りはさっきの
女性の残り香を感じさせた



『気をつけていってらっしゃい。』


「‥‥‥‥」


どういう気持ちで声をかけて
来てるんだろう‥‥


本当にここに山岡さんも
住んでるのだとしたら、なんとなく
気まずいな‥‥


モヤモヤした気持ちで、前の
アパートの退去の立ち会いを済ませ、
お部屋の中に飾りたいあれこれを
色々買いながらタクシーで帰宅した。


「ふぅ‥‥重いものは何回かに分けて
 運ぶとして‥‥」


『こんにちは。』


えっ?
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