隣人はだらしない‥‥でも
放心状態のマルを何とか部屋に連れて
行き、ソファに座らせた。


「山岡さんは帰っていただいて
 いいんですけど。」


腰を痛めた山岡さんはマルの憧れる
お姫様抱っこは出来なかったけど、
フラフラで歩けない彼女を一緒に
ここまで運んでくれたのだ


『どうして?俺はまだ茅葵と一緒に
 過ごしたいんだけどな‥』


ヴッ!!


お人形のような美しい顔でそんなことを
言われても困る‥‥。
それにあんなこと言われた後で、
どんな顔してていいかすら分からない。


冷蔵庫からミネラルウォーターを
取り出し注いでいると、後ろから
山岡さんにバックハグされ暴れた


「ほんとに困るんですって!!」


私を犬か何かと思ってるのか、
スキンシップが激しすぎる


好きな人とならこういった行為も
幸せに感じるかもしれないけど、
腰に手を回し頭の上に顎を乗せる
相手は紛れもない上司


『俺お腹空いたな‥‥朝から何にも
 食べてないんだけど‥‥』


「帰ってどうぞ好きなものを食べて
 ください。腰も痛めてるんですよね?
 治しておかないとお仕事中に痛く
 なっても知りませんからね?」


『ちーちゃん‥‥ってやっぱり王子様と
 付き合ってるの?』
 


マル!!!


「ち、違うから!!
 この人は私の勤めるデザイン会社の
 社長さん!!雇い主なの!!
 ちょっと海外生活長いから
 そのスキンシップがおかしいだけ!」


ドンっと山岡さんを突き飛ばすと、
目の前に立つマルの両肩を手で掴み
ブンブンと揺さぶる


『そっか‥‥なんだ‥‥残念。
 ちーちゃんにいい人できたら
 嬉しかったのに。そうだ!!
 お昼まだなら大好きな
 オムライス作るけど食べる?』


「食べる!!マルのオムライス
 大好きだから!!」


マルが作るオムライスは
本当に美味しくて大好き。
洋食屋さんを営む家庭で育ったが
故に出せる味付けはお店そのものだ


『あの‥‥良かったらご一緒に
 如何ですか?』


「マル!!この人はいいから!!」


『マルちゃん、俺もオムライス大好き。
 ぜひ食べてみたいな。』


『はい!1人分増えるのなんて大した
 ことないので。ちーちゃん、キッチン
 借りるね?』


後ろに立つ山岡さんをギロッと睨むも、
嬉しそうに笑う顔に盛大に溜め息を
吐いてしまった。
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