隣人はだらしない‥‥でも
「食べたらすぐに帰ってくださいね。」


マルが家から持って来てくれたのか、
ブイヨンのいい香りがする中、
ダイニングテーブルにカトラリーを
2人で準備しながらもう一度睨んだ


どうして貴重な休日を上司と
過ごさないといけないんだろ‥‥


山岡さんもお休みの日なら家に帰って
ゆっくりしたらいいのに‥‥


こんな上司だけど、
時には休憩も取れないまま仕事したり、
取引先へ打ち合わせにも出掛けてるから
本当にハードな時間を過ごしてると思う



こんな社員と過ごしてて、気も使うのに
疲れないんだろうか?


『茅葵とランチに行きたかったから、
 マルちゃんのおかげで助かったよ。』


はぁ?
ランチに行くつもりだったの?


ニコニコな笑顔で答える姿に、
マルは噴火でもする勢いで真っ赤になり
キッチンで倒れそうになっている


「マルは私と違って純粋なので、
 揶揄うのやめてくださいね。」


『茅葵は純粋じゃないの?』


「私は‥‥」


ここまで言って言葉に詰まってしまう。


私の中のドロドロとした汚い感情を
この人は知らないし、誰にも言えずに
隠し通して来たから。


「私のことはいいんです!!
 とにかくマルを巻き込まないで
 くださいね?」


カトラリーの準備が終わると、
キッチンに行きマルのお手伝いをした。



「わぁ‥美味しそう。いただきます。」


定番のオムライスにおじさんお手製の
メンチカツとコロッケ。
そして私が大好きなコンソメスープに
ヨダレが出そうなほどだ


『どうぞ召し上がれ。』


『マルちゃんありがとう。
 いただきます。』


『えっ!?あ、は、はい!!』


ダメだ‥‥‥。
純粋なマルは山岡さんが王子様に
見えているに違いない‥‥


長髪に整った容姿、身長も180後半と
普通なら誰もが見惚れてしまっても
おかしくないと思う


何故こんな人が、中肉中背、
容姿も見てくれも普通の私に
一目惚れなんてするのだろうか?


出会いなんて最悪だったのに‥‥


「はぁ‥‥幸せ‥‥。
 今度おじさんのお店にも顔出すね。」


『うん、喜ぶと思う。
 ちーちゃんのことは今でもずっと
 心配してるから。』


「うん‥‥そうだよね。
 来月中に行くって伝えておいて?」


他にもおかずをタッパーで沢山
持って来てくれたマルにお礼を伝えて
下までお見送りすると、何故か隣に立つ
山岡さんにマルが手を差し出した。
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