王太子だからといって思い通りにはさせません!


決定事項
細かいことが決まっていった。

私の一番の仕事は世継ぎの男子を産むこと。
これは何を置いても最重要事項だ。

「子ができやすい期間の一週間は私と閨を共にすること」

「分かりました。子ができればそれ以降は閨はないということでよろしいですね」

「ああ。異論はない。しかし男子に限る」

確率は二分の一だわね。

「子づくり以外は関わらないでいただきたく思います。勿論、王太子妃の職務は果たします」

彼は頷いた。

「君は自由に宮殿で過ごしてもらって構わない。公務でどうしてもという場合は私と共にいるように。私も私の職務がある。それ以外は一緒にいる必要はない」

「では、公務以外では、月に一週間だけ閨を共にするということで」

「ああ。それ以外寝室は別だ。ことが終われば私は自室に戻る」

彼と仲良く過ごしていければと思っていた。大ことなことは互いを思いやり、慈しみ生涯愛し合えればいいと。
その必要は私の自分勝手な我儘により、拒否されることとなったらしい。

反論しようにも、何を言おうが言いわけにしかならないだろうと悟った。
彼が言うことはもっともだし、彼に言わせれば、私はきっと我がままなのだろう。

国の為、国民の第一に考えている素晴らしい王子だ。
きっと王宮の誰もが彼の言っていることが正しいというだろうし、それが王太子の使命だと思っているだろう。

立派な王太子だ。

そして私は最低の王太子妃。



「必要以外の身体の接触はなしにして下さい」

手を繋いだり、抱きしめたり、キスしたり……
子づくりにそんなことは必要ないだろう。

「私はスキンシップなど望んだ覚えはない」

「そうですか。私はこの国の王太子妃です。ですから私の好きなように食事を取り、私の好きなように自由な時間を過ごさせていたたきます。部屋も、貴方とできるだけ離れた場所に……」

「なんだ?」

「できれば宮殿内ではない場所に部屋がいたたきたく思います」

「ここを使え」

「はい?」

「もう、君にこの離宮の場所がバレてしまった。私の心の休息場だったが、誰かに知られていてはその意味をなさない」

ここを使って暮らすことができれば、この人と顔を合わさずに済む。
助かったと思った。

「では、私はこの離宮を、私の好きなように使わせていたたきます」

そして、この結婚の契約書が私たち二人の間で交わされた。

ウィルは表向きは仲の良い夫婦であるように振舞えという。
けれど、それは一緒にいる時のみ。

行動を共にさえしなければその必要は生じない。
王太子妃が使える予算も、自由に使用しても良いと言われた。

私専用に事務官も秘書も護衛も、そして侍女たちもいる。この離宮は食堂も調理場も全て揃っているし、寝室だってある。

「ここを、私が住みやすいように模様替えさせていたたきます。これからは、ここの管理などは私が好きにしていいと承諾して下さい」

「好きにしろ。私はここには二度と足を踏み入れないだろう」

とはいえ、私はひと月分の今後の予定が組まれている。
貴族たちの婦人会や、招待されている茶話会。
美術館、博物館などのイベントへの参加。

何やらの発表会や、何やらの記念式典、何やらの見物。

最初のうちは、何が何だか分からないので決められたものには参加しなければならないだろう。けれど、私は馬鹿ではない。無駄や必要がないと思うものは全て欠席しましょう。


「王家主催のパーティーなどは同伴するように」

「はい。エスコートよろしくお願いします」


彼は時計を確認した。この後仕事があるのだろう。私もこれからメディカルチェックを受けなければならない。
健康状態と、妊娠しやすい時期を王宮の医師に診断してもらう。

「王太子妃の仕事は宮殿でします。夜間は夫人の寝室で休ませて頂きます。警備上の都合もありますでしょうし。その時期が来ましたら、夫婦の寝室へ参ります」

「わかった」

テーブルに用意してあった用紙にペンを走らせる。


書記官のごとく美しい文字で正確に素早く記入している。
普通、そういった書簡は文官が作るものだ。自身で書き上げていくウィルは、何でも自分でやってしまう、できてしまう人間なんだと思った。

ウィルは出来上がったものに目を通すよう私に伝える。
そして従者を呼んでこの離宮にある私物を移動するように命じた。

昨夜のうちに全て考えていたのだろうか。目標から逆算し、優先順位を立ててすべきことをこなしていく。

この人、王太子としては申し分ないのね……きっと。


「私の私物は運ばせる。その後は好きに改装なり改築なり、模様替えをすればいい」

冷たくそう告げる姿に、結婚したての妻に対する気遣いはない。



そして彼は足早にこの離宮を出て行った。
私はそのままここに置いて行かれた。

私は……自由な場所を確保したってことよね?
エスコートされなくても、彼が紳士として振舞わなくても、何の問題もないわ。ここでは誰も見てないんだもの。
それって、とてもラッキーだわ。

私と彼はお互いまったく意見が合わない。
考え方も性格も正反対のようだ。
今の話し合いで、お互い別居婚状態を望んでいるというところで意見は一致した。

もうこれ以上ウィルと話なんてしたくない。
せいせいした。


「……我慢すればいいのね。一週間だけ彼との閨を我慢して、さっさと妊娠すればもう当分は閨を共にする必要もない。私は男児を産めばそれで使命を果たしたものとされるだろう」

意地でも最速で男児を産んでやる。闘志に燃える瞳で彼の出て行ったドアを睨みつけた。


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