お菓子の国の王子様
何かを決心したような彼女から、ようやく待ち望んでいた言葉を聞くことができた。


「しゃ、社長、よろしくお願いいたします」


そう言って頭を下げた。


この時、大和が満足そうに頷いていたのは、俺だけが知っている。





涼介が立会いの場で契約書にサインを交わした直後、彼女の様子がおかしい。
頭を抱えてうつむき、顔色も良くない。
何があったのだろう?
やはり後悔しているのか?


彼女の心の声が再び漏れ出した。


「あぁぁ、どうしよう? 引越しのことで頭がいっぱいで、全然考えられなかった。どうやって両親に説明しよう? いきなり『社長と同居するから』なんて言えないよ。このまま黙ってる? むり、ムリ、無理だよ! だって、新しい住所も知らせないといけないし。特に圭衣ちゃんはよく荷物を送ってくるから、黙っているわけにはいかない。というか、両親よりも圭衣ちゃんの方が怖い。絶対に怒るよ。ようちゃんを味方につける? どうしよう、なんて言えばいいの?」


仕事では常に冷静で感情を表さない彼女が、今、パニックに陥っている。
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