お菓子の国の王子様
「えっ、こんなにたくさん? これから引っ越しするのに」


「だから、クーラーバッグに入れたのよ。美愛ちゃんが作るイチジクのジャムは、とても美味しいのよね。ジャムを作ったら、持ってきてね〜」


にっこりと笑う久美子さん。
さて、ジャムをさりげなく催促したかったのだろうか?


「もー、だからこれから引っ越しをするって言っているのに」


口を尖らせて不服そうな美愛ちゃんをなだめようと、俺が間に入った。


「俺もジャムを食べてみたいな。せっかくだから、いただこうよ?」


してやったりの表情を浮かべる久美子さん、やはりこの人は策士だ。
ジョセフさんは少し離れた場所で二人のやり取りを見守り、肩を震わせながら笑いをこらえている。


俺の姉、葵と母さんとの口論に比べると、ほのぼのとした気持ちになる。
怒った美愛ちゃんも可愛らしい。また新たな彼女の一面を見ることができた。
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