お菓子の国の王子様
ああ、また涙が出てきそう。


涙を止めようと立ち上がり、夜空の月を見上げる。


「美愛ちゃん!」


雅さんに呼ばれたの? きっと空耳だよね。


「美愛ちゃん!」


再び聞こえた声は、さっきよりも大きく、誰かが走ってくる音が近づいてきた。


「やっと見つけた......無事でよかった!」


力強く抱きしめられ、汗と混ざった紅茶とムスクの香りの香水が鼻をかすめた。


あっ、雅さんだ。


「こんなに冷たくなって」


彼はスーツのジャケットを脱ぎ、私にかけてくれ、恋人つなぎで手をつないだ。


「俺たちの家に帰ろう」
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