お菓子の国の王子様
「ああ、どうしよう。どうしてこんなことになってしまったのだろう……」


ミッドタウンの中心から一本裏路地に入ったビルから出てきた私の頭の中には、この三つの言葉がぐるぐると巡っている。


正社員に採用されると思い込んでいた私が知らされたのは、会社が閉鎖されるということ。70歳近い社長が入院し、皆が長男が継ぐと思っていたが、本人は全くその意志がないそうで。正社員ではなかった私は、雀の涙ほどのわずかな現金をいただいた。


せっかく家を出て自立できたと思っていたのに......
みんなには秘密にしなければならない。
絶対に『帰ってこい』っていわれるもん。数ヶ月分の家賃を払えるだけの貯金はあるし、大丈夫。きっとなんとかなる......よね?





いくらゆっくり歩いても、15分ほどで裏通りの商店街にある待ち合わせの場所、喫茶BONに到着してしまった。
 

店の前で笑顔を作り、口角を上げてから、ゆっくりとドアを開けて静かに中へ入る。
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