お菓子の国の王子様
「癖のある文字でした。このファックスに書かれているのは高地ドイツ語、いわゆる方言ですので標準ドイツ語とは少し異なるため、戸惑ってしまったのかもしれませんね」

「えっ、そうなの? 俺はドイツ語ができないから。ドイツ語担当者も『読めないし、意味がわからない』って言ってたのはそういうことだったんだ。じゃぁ標準ドイツ語で契約書を送ったらまずいか?」


少し焦りを感じる雅。どうしてもこの契約を成立させたい。


「高地ドイツ語を話す人々は、標準ドイツ語も理解しています。それが公用語なので。ただし、彼らは自分の地域に対する誇りから高地ドイツ語を使用していると思います」

「花村さんは、そのドイツ語を知っていたんだ。」

「父の一族はバイエルン地方出身なので」

「南ドイツなんだね。もしかして、さっきのコーヒーを知っていたのもそうなの?」


美愛は微笑みながら頷く。


「さっきのコーヒーの取り扱いについても考えてるんだ。少しずつだけれど、お菓子に合うコーヒー、紅茶、ハーブティーを取り入れたい。また、南ドイツの会社と交渉する際には、花村さんに手伝ってもらわないと」


社長から嬉しい言葉をかけられ、自分の仕事が役に立ったことに喜びを感じた美愛。

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