お菓子の国の王子様
眉間にシワを寄せ、これまで静かに聞いていた社長が提案を始める。


「花村さんはそのアパートに戻るべきではない。今の状態では、いつ何が起こるかわからないから。俺の家は3LDKで、一部屋空いてる。うちにおいでよ」


社長の優しさには感謝するが、まず第一に、家賃の半分すら払えないと思う。


「あ、ありがとうございます。でも、半分の家賃でもお支払いできません。」

「家賃も光熱費も不要だよ。その代わりに、俺のために食事を作ってほしい。できれば、朝昼晩の3食をお願いしたい。​朝は簡単にコーヒーとトーストで十分、予定がない昼の弁当と夕飯。もちろん、食費を含めた生活費も出す」


この条件は私にとって非常に良すぎるが、社長にとっては食事以外のメリットがない。


「とてもありがたいお話ですが、社長には食事以外に何のメリットもありませんよね? それに、私がいると逆に休みにくくなるのではないでしょうか? これでは申し訳ありません」

「そうでもないよ。さっき大和が言ったように、体調も整いもっと仕事に専念できる。花村さんと一緒にいても、俺自身が自然体でいられるから。それに何より、君がこれ以上危険な目に遭わずに済むんだ。君は俺にとって、BON BONにとっても大切な社員だからね」
< 89 / 169 >

この作品をシェア

pagetop