光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第十一話 続逃亡中

アルディラの街にやっと到着すると、馬を休ませて街をヴェイグ様と歩いていた。



黒髪が一部分だけある私は、目立つ存在である可能性が高く、マントのフードを目深に被っていた。



「時間がなくて、すまないな」

「私の方こそすみません。こんな逃亡をさせてしまって……」



すでに日は落ちているものの、街は街灯の灯りもあり、それなりに明るい。夜にも、食事や劇場もあるために、石畳の風景のなかうを馬車も通り過ぎていた。



貴族たちもいるせいか、街には騎士団もあり、見回りのために騎士たちを見かける。

その姿をみると、そっとフードをまた目深に寄せた。



「騎士団にも、見つからない方がいいな……」

「そう思います……私の容姿は、その……騎士団でも有名だったと思います」



馬車よりも、早馬でかけた方がずっと早い。もしかしたら、私がいなくなったことにすぐに気付いて騎士たちを追っ手を差し向けている可能性も低くない。



秘密を知っている私を、陛下とイゼル様が見逃してくれるとは思えない。

むしろ、マティアス殿下の側妃に、召し上げられそうだ。そうなれば、正妃とは違う自由が奪われてしまう。



天井から落ちてきた王弟殿下ヴェイグ様との不貞を疑われたばっかりに……。

せめて、私から婚約破棄をしたかった。



嘲笑と侮蔑。特に、黒髪が現れてから、そんな一年を過ごしてきた。

でも、大聖女候補であることは止められなかった。

マティアス殿下の婚約者であることもだ。



その時に、見回りをしている騎士二人がこちらに近づいてきた。

それを察したヴェイグ様が、私をマントの中に入れるように隠して、建物と建物の間に押しやった。



「……セレスティア。声を出すなよ」

「は、はい……」



消えそうな声音で返事をした。それよりも、密着具合に動悸がする。



「……そこの二人。何をしている?」



声をかけられて、ヴェイグ様が鋭い瞳で見据えると、騎士二人は一歩後ろに下がってしまう。



「……邪魔しないでくれないか? やっと口説き落としたところなんだ」



口説かれてません。口説かれてないけど……私の顔が見えないようにしっかりと腕の中に入れられて、益々動悸がする。今の赤面している顔を見られたら、恥ずかしすぎる。



「……マントで隠しているのは、見られたら困るからじゃないか? 関わらない方がいい。もし、身分の高い方だったら……」



どうやら、マントで顔を隠して歩いていた私とヴェイグ様が、怪しかったらしい。

確かに、貴族たちも行きかいするような場所で、マントを被り誰かわからないように隠していたら怪しいだろう。でも、ヴェイグ様の鋭い視線と発言に、騎士二人は貴族の不倫ぐらいと勘違いしてしまっている。



この騎士二人に怯まない堂々とした態度のせいかもしれない。



そう思っていると、ヴェイグ様の顔がフードの中の私の顔に近づいてきた。そっと頬に口付けをされる。ああ、これで、逢引き決定だ。



「行こう。女性は見ない方がいい」

「そうだな……巻き込まれない方が……」



そう言って、見回りの騎士二人は去っていった。



見られたら不味い身分だと華麗に勘違いしてくれたおかげで、私の素性を知られることはなかったけど、それよりもヴェイグ様の仕草に挙動不審になってしまう。



「……もしかして、初めてだったのか?」

「き、気のせいです!!」

「王太子殿下は、ずいぶんと奥手なのだな」



ククッと、喉を鳴らしながらヴェイグ様が言い、恥ずかしいままの私はツンと顔をフードに隠した。

奥手なのは、私たちがきっと上手くいってなかったからです。エリーゼとは、城の奥に行ってました。きっとあの奥では、あれやこれやと、いたしていたと私は思ってます。



口付けをされた頬を押さえて、顔を背けた。この自信ありげなヴェイグ様を直視できない。



「……セレスティアは、カレディア国が君を探していることに、違和感がないのだな」

「……婚約破棄をされましたから……マティアス殿下はしつこいですよね」

「それだけか?」

「……他に理由がありますか?」



カレディア国の秘密は言えない。私と聖女機関の責任者イゼル様と陛下しか知らないこともあるのだ。

マティアス殿下は、知らなかったはず。だから、あんなに簡単に浮気をして、私を手放したのだ。



「カレディア国に来た時よりも、騎士たちが多い……ドレスを買う時間はなさそうだ。すぐに街を出よう」

「は、はい」



緊張冷めやらぬままで、ヴェイグ様が私の肩を抱き寄せる。一向に離してくれない。破れたドレスのままで、私とヴェイグ様はアルディラの街を出ることになった。









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