光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第十七話 闇を残して空へ逃亡

フェルビアの砦の入り口には、ロクサスたち聖騎士と、シュタルベルグ国の騎士たちが、今にも剣を抜きそうな勢いで言い争っていた。



「セレスティア・ウィンターベルを出していただきたい! なぜ、出せないのだ!」

「シュタルベルグ国の許可なく通ることは、まかりならん! 下がられよ!!」



ロクサスの怒号が響き、門番に詰め寄っていた。



その砦の入り口へとヴェイグ様と行くと、目ざとくロクサスが私を見つける。



「セレスティア!!」

「ロクサス……シュタルベルグ国の騎士たちと争わないで」



私に向かってこようとしたロクサスと私の間に門番が立ちはだかると、それをヴェイグ様が止めた。



「いい。よくやった。お前たちは下がれ」

「「……ハッ」」」



ヴェイグ様の指示に門番たちが通り過ぎようとすると、ロクサスに聞こえないほどの声音でヴェイグ様が門番に言う。



「アベルの指示に従え。すぐに出る」



そう言うと、門番たち軽く頷き砦に入っていった。



「セレスティア! 何をしているんだ!! すぐにこちらに!!」

「ロクサス。このまま帰って。ここにいても、私は帰らないわ」

「何を言って……君は聖女だぞ!! 聖女が許可なく、他国に行くなど……無理やりなら、すぐに助けてやる!」

「大丈夫よ。解任されたから、私がどこに行こうが関係ないの」



安心してくださいという気持ちで笑顔を作って言うが、ロクサスの怒った表情は変わらない。



「はぁ!? 何を言っているんだ!? セレスティアが聖女を解任されるなど有り得ない!! セレスティアは、大聖女候補だぞ!!」



まったく信じてないロクサスに困ったなぁと思う。彼は、真面目なのだ。



「カレディアの聖騎士。無理やりではないぞ。セレスティアは、俺の婚約者だ」

「彼女は、王太子殿下の婚約者。将来の王妃になられるお方だ。一介の騎士ごときが娶れるはずなどない」

「その王太子殿下が、あっさりと婚約破棄をしたぞ。それと、俺はシュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグだ。言葉に慎め」

「そんなはずは……っ」



ヴェイグ様の言葉にロクサスは信じられない様相を見せる。そして、私の名前を叫んだ。



「セレスティア!!」

「はい。何ですか。大声をだして……」

「噓だろう?」

「それが、本当なのよ」

「信じないぞ」

「信じなくてもいいから、聖騎士たちを下げてちょうだい。ここは、シュタルベルグ国に開放している砦です。シュタルベルグ国同然と思うべきです」



ロクサスの後ろには、今にも剣を抜きそうな聖騎士たちが控えている。彼らは、ロクサスと同じで、討伐任務に出ていたから腕に自信があるのだ。



「こちらの聖騎士も困った奴だな」

「ロクサスは、真面目なのです」



ロクサスの剣幕に飄々としたヴェイグ様が、私の背後から腕を回し抱き寄せたままで言う。



「……っシュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグ殿。セレスティアから、離れてもらおうか」

「お断りだ。貴様に指示される謂れはない」

「なら、力づくでセレスティアを取り戻す。セレスティア・ウィンターベルはカレディア国の聖女機関の聖女だ」



そう言って、ロクサスが剣を抜いた。その様子にヴェイグ様の雰囲気が鋭くなる。



「……誰に向かって剣を抜いたのか、わかっているのか?」

「聖女セレスティアは渡せない。イゼル様の指示でもある」

「……馬鹿々々しい。誰かを理由にしないと、セレスティアを連れ戻せないのか?」

「黙れ!!」



ヴェイグ様の挑発にロクサスが剣を抜いたまま向かって来ようとすると、追従して一斉に聖騎士たちがかかって来ようとした瞬間、砦の入り口になっている外に剝き出しの通路の左右から、飛竜が飛び上がってきた。

それに、ロクサスたちが一瞬躊躇する。

門番たちも、飛竜に乗ったのだ。もうフェルビアの砦にシュタルベルグ国の人間はすべていないのだとわかる。



「セレスティア。行くぞ。足止めは終わりだ」

「はい」



そう言って、私を横抱きに抱き上げて、軽々と通路に飛び上がったヴェイグ様。

誰も乗っていない飛竜がヴェイグ様の目の前で羽ばたいており、私を抱えたままで、飛び乗った。



「待て!! セレスティア!!」

「ロクサス! 追って来ないで!!」



飛竜の上で、ロクサスのそう叫んだ。見逃して欲しい。私はカレディア国にいる理由がもうないのだ。



「セレスティアを逃がすな!!」



一瞬躊躇していた聖騎士たちが、ロクサスの声掛けで動き出した。飛竜にめがけて聖騎士たちが光魔法を放つ。飛竜の乗った竜騎士団が閃光のような光魔法を避けようとさらに上昇している。



私一人を連れ戻すために、ここまでロクサスがすることに少し驚いた。彼に激情などあると知らなかったのだ。だからといって、シュタルベルグ国の人たちを傷つけさせるわけにはいかない。



「ロクサス! 聖騎士たちを下げなさい! 攻撃は許しません!!」

「なら、降りて来い!! 不満があるなら、俺が一緒に談判してやる!! 何かあるなら、俺が守ってやるから!!」

「……もう遅いわ」



誰にも聞こえないほどの声音でぽつりと言う。

ロクサスが今更私に助けの手を伸ばしても、もう遅い。ロクサスなら、私の秘密を知ることもあっただろうけど、何もかもが遅い。



「セレスティア。少し目を瞑っていろ」



ヴェイグ様が片手で私を彼の胸板に押し付けるように抱き寄せた。何をするのか分からずに、ヴェイグ様の胸板で視界が塞がれている。



「しばらく、そこで大人しくしてろ」



聖騎士たちに向かってそう言い、手を払うような仕草でヴェイグ様がロクサスたち聖騎士を包むように、魔法を放った。

ロクサスたち聖騎士を中心に、辺りが闇に包まれるように真っ暗闇の帳が広がる。



ヴェイグ様の魔法は闇魔法だ。光の聖女や聖騎士たちと正反対属性だ。



「行くぞ。セレスティア。カレディア国とはおさらばだ」



聖騎士たちは混乱しているが、それでも光で闇をはらおうとしていた。その彼らを後ろ目に、飛竜で私たちはフェルビアの砦を離脱した。













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