光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第二十話 シュタルベルグ国の朝

__ブリンガーの街。

その高台の邸に到着していた。ブリンガーの街の邸はヴェイグ様の別邸だと言い。王城から、は少し離れている。カレディア国の国境付近の街だった。



邸の敷地は広く芝生の広がる庭には、飛竜も滞在出来るような竜舎もあった。





その邸で休んだ翌朝。

朝から、ヴェイグ様が大きな箱を抱えてやって来た。



「昨夜はよく眠れたか?」

「はい。疲れていましたから……でも、着替えがすむまで入って来ないでくださいね」



昨日の深夜。この邸に到着して軽食を摂った後は、ヴェイグ様とそうそうに眠りについた。そして、朝には彼はいなくなっており、ホッとして目を覚ましたのだった。



逃げるようにカレディア国から来たものだから、何も持って来ないままで昨夜もヴェイグ様のシャツを借りていた。



「その着替えを持って来たんだが……嫌なら、そのままでもいいぞ」

「あなたはどういう性格をしているんですか……こんな格好では何もできませんよ。部屋からも出られません」



いやらしいのです。女慣れをするにも程がある。私とは、どう考えても正反対だ。



ツンと顔を背けた私に、ヴェイグ様が大きな箱を差し出した。



「着替えだ。気に入ると良いが……」

「私に……ですか?」

「そうだが? 何も持って来ずにカレディア国から来て、買い物も出来なかったからな。それに、ドレスをダメにして申し訳なかった」

「でも、助けてくれました……」



そう言うと、ヴェイグ様が少しだけ目を細めて柔らかい雰囲気を醸し出す。



「セレスティア。早速着てくれるか? 俺としては、そのままでも問題ないが……」

「す、すぐに着替えます!」



ククッと喉を鳴らしながらヴェイグ様が部屋を出て行ってくれる。女性の着替えをまじまじとみる趣味はないらしくて、ちょっとホッとする。

残された部屋で、渡された箱をおそるおそる開けると、きれいな青いデイドレスに呆けてしまう。

高級感溢れるデイドレスは誰が見ても美しい。



いいのかなぁ、と思うが着替えがなくては困る。カレディア国からずっと着ていたドレスはヴェイグ様が天井から落ちて来たせいで、所々が裂けているのだ。



青いデイドレスを着てみると、私のクリスタルブルーの髪色に合うようなデイドレスで、少しだけ胸が弾んだ。もしかして、私に、似合いそうなものを選んでくれたのだろうか。

そう思いながら、デイドレスに着替えた。



「セレスティア。ドレスはどうだ? 着替えは済んだか? そろそろ入ってもいいか?」

「は、はい! どうぞ」



声をかけられて返事をすると、ヴェイグ様が颯爽と入ってくる。



「ドレスは、どうだ?」

「綺麗です……」

「気に入ってくれて良かった。しばらくはこの邸に滞在する。王城に帰還しても面倒なだけだ。それに、あの王太子殿下は意外としつこそうだ」

「それまでは、素っ気なかったんですけどね……」

「別れるのが惜しくなったのだろう……あのままだと、王太子殿下に利用されていたぞ」



ソファーに座ったヴェイグ様にお礼を言うために近づくと、彼が何の迷いなく私の両手を掴んでゆっくりと引き寄せた。



こんなに大事そうに触れられたのは初めてだった。恋人のような仕草にどきりとした。



「惜しむものなどありませんけどね。聖女もクビになりましたし……」

「それは、都合がいいではないか。遠慮なくシュタルベルグ国の王都に連れて帰られる」



そう言われれば、そうかもしれない。マティアス殿下は私が縋る様にやっているのかもしれないけど、私は絶対に靡かない。



「ヴェイグ様。デイドレスをありがとうございます」

「午後には、店からいくつかドレスやナイトドレスも届け差すから、しばらくは、それで足りるだろう。王都に帰れば、きちんと準備する」

「あの……シュタルベルグ国に連れて帰ってくださったので、いつでも婚約を破棄してもかまいませんよ。カレディア国から脱出するためだけだったですので……ですから、ドレスはいらなくて……むしろ、探索のシードを返してくださいね」

「それは、困るな。俺は、婚約を破棄する気はないし、探索のシードも一生返さない」

「お詫びは、脱出するために結んだ婚約だけで十分ですよ。今だけです」

「守ってやると、言っただろう」



真剣な眼差しに動悸がしてきた。そんな私の腕を引き寄せて、足を不安定になると、頬に口付けがくる。



「……っ!?」



慌てて態勢を戻す。顔が真っ赤になって頬を押さえると、ヴェイグ様が勝ち誇った表情で笑みを浮かべた。



「……本当に男を知らないんだな」

「当たり前です! わ、私は聖女で……」

「聖女でも、普通の生活をしているのではないのか?」

「だって……私は、城に住んでいて……みんなの見本にならなくてはいけなくて……」



婚約者はカレディア国の王太子殿下で、誰にも隙など作れなかった。実家の両親は領地にいて頼れない。私は王都にいてもどこにも行く場所などなくて……。



「私に、こんな事をするのはヴェイグ様だけです」

「俺は、遠慮しないぞ」



押しが強いのです。そう思うと、頬を押さえている手を取られる。



「セレスティア。前も言ったが、お前に惚れている。だから、婚約破棄は考えないで欲しい」

「……ヴェイグ様……だから、いったい、いつから!?」



数日前に天井から降ってきたばかりですけど!!

確かに、逃亡中もそんなことを言っていたけど、信じられない。



「いつからでもいい」

「一目ぼれするタイプに見えないんですけど……」

「そうか?」



絶対そうだと思う。手が早いのです。しかも、なんとなく交わし方が上手い。

そのうえ、この整った顔……絶対に女がいそう。



そのときに、コンコンッとノックの音がした。



「__ヴェイグ様。セレスティア様。朝食の準備が整っております」



シオンたちが、朝食の報告に来ると、ヴェイグ様が私に手を握ったままで立ち上がる。



「ああ、そう言えば、朝食を誘いに来たのだったな」

「そうだったのですか……ありがとうございます」

「では、行こうか。セレスティア」

「はい。ヴェイグ様」



穏やかな朝は久しぶりだった。ヴェイグ様のおかげでカレディア国を脱出できた。

ただ、この男の仕草に、図らずも動悸がしただけで……。



そうして、美味しい朝食と共にシュタルベルグ国での生活が始まった。







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