光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第三十一話 シード(魔法の核)を造ろう
__翌日。
ヴェイグ様の離宮の庭園で、今日からシード(魔法の核)を造ろうと来ているが……。
庭園に興味がないのか、暗くてわからなかった庭園には使ってない花壇もあった。むしろ、枯れているのです。
「どこで造るんだ? 庭園でできるのか?」
「そうですね……あの枯れて使ってない花壇を使ってもいいでしょうか?」
「かまわないが……」
「それと、シード(魔法の核)を造るので、決してこの庭園は人を来させないでくださいね」
「わかった。まぁ、もともと誰も来ないから、言わなければわからないだろう」
「はい」
この寂れ具合を見れば、人は来ないのだとわかる。それにちょっとホッとした。
枯れた植物をヴェイグ様と片付け、花壇を綺麗にすると、腰を下ろして大地にそっと手で触れた。
それを、ヴェイグ様がジッと後ろから見ていた。
触れた手から豊穣の魔法を使えば大地が活性化していき、残っていた種があったのか、所々から緑が芽生えてきた。
「……一瞬で芽吹いたぞ」
「これでも、大聖女候補でしたからね……それに種が残っていたのでしょう。植物は意外と生命力が強いのですよ」
驚いたヴェイグ様をよそ目に、胸に隠していたシード(魔法の核)を取り出した。
「どこに隠しているんだ」
「これだけは、カレディア国の私の部屋から持ち出していたのですよ。マティアス様が邪魔しなければ、荷物も持ってこられたのに……」
「欲しいものは、買ってやるぞ」
持ってきたシード(魔法の核)を花壇の土に埋めながら、ほんの少し考えてしまう。
「……今は、いいです」
「何故だ? 必要なものはないのか?」
「必要最低限のものは、ヴェイグ様が用意してくれましたし……」
「他にもいるだろう? 婚約者に不自由させるような甲斐性なしではないんだが……」
「今のままで十分ですから……感謝してますよ」
「それならいいが……」
何か言いたげにジッと見下ろされると、どきりとする。
「何ですか?」
「いや……まぁ、いい。次は何をするんだ?」
「お伝えしていたシード(魔法の核)はありますか?」
「三つほど準備したが……これで、いいのか? 欠片だぞ」
「はい。十分です」
ヴェイグ様が出してくれたシード(魔法の核)を受け取り、それに光魔法で紋様を描いていく。私の手から出している光の線が描いていく様をヴェイグ様がまじまじと見ていた。
「すごいな……光の祝祭のシード(魔法の核)もそうやって造るのか?」
「まぁ……似たようなものですけど、あれは秘密ですね」
「ふーん……」
あれは、特別なのです。
「この水色のシード(魔法の核)は、リリノア様ので……ヘルムート陛下は、魔除けにでもしましょうか? 部屋にでも置いておけますので。ヴェイグ様は、何のシード(魔法の核)が欲しいですか?」
「魔法には、困ってないからな……先ほどのようにこの庭園が元気になるようなものは出来るか?」
「そうですね……それなら、私の魔法で十分ですけど……」
それなら、定期的に私が豊穣の魔法をかければいいことだ。
「ずっと魔法をかけているわけには、いかないだろう」
その言葉に思考が止まった。
私がずっと魔法をかける必要がない。そう聞こえてしまう。
「…………」
「……セレスティア? どうした?」
「なんでもありません。ヴェイグ様の紋様は後回しにして、とりあえず、シード(魔法の核)の成長だけさせておきますね」
ヴェイグ様の言葉に、無表情になっていた顔から笑顔を作った。
「紋様だけ後から入れることもできますので……」
「セレスティア。顔がおかしいぞ」
「失礼ですよ。これでも、身だしなみには気を付けています」
「そうではなくて……」
「終われば、ブラックローズの水やりもあるんですから、テキパキとやらないと……ヴェイグ様は、お仕事に行くって言ってましたよね。そろそろ時間ではないのですか?」
キュゥゥと光の線で紋様を書き終われば、そのシード(魔法の核)を氷山の一角のように埋めた。
「これで、終わりです。では、次は庭園の水やりをしますね」
スッと立ち上がって背筋を伸ばすと、ヴェイグ様が眉間にシワを寄せて睨んでいる。
「おい!」
「何ですか?」
「さっきから、おかしいぞ」
「おかしいのは、あなたですよ。仕事に行く時間ですよ?」
むむっと睨みあうが、私の顔よりも、ヴェイグ様の顔のほうが迫力はある。
「……なら、見送ってくれ」
その形相で、いったい何を言い出すのかと思えば……。要望は可愛いのに、表情とかみ合ってなくて、こちらの反応に困る。
「いいですけど……ではいってらっしゃいませ」
「ここではない!」
「どこまで行ってほしいんですか……」
「いいから、来い」
はぁ……とため息交じりで、ヴェイグ様を見送ることになると、庭園の外まで一緒に歩いた。
「ヴェイグ様。どこまで行くのですか?」
「そんなに、来たくないのか?」
「見送るだけで、離宮を離れる意味がわかりません」
普通、見送りは玄関ではないのだろうかと疑問に思い、思わずツンとした。
「……仕事は、兄上の執務室に行ってから、近くにある俺の執務室でする予定だ」
「はぁ……そうですか。頑張ってくださいね」
「気にならないのか?」
「もしかして、淋しいのですか?」
「まったく違う。違うが……」
ツンとした私の頬に、ヴェイグ様が腰を曲げてキスをしてくる。何度されても、前触れのないキスは私の羞恥を煽るもので……赤くなる頬を両手で押さえてしまう。
「何かあれば、すぐに来るように。シオンも頼れ、すぐに連絡がつく」
「……わかりましたっ……」
「では、行ってくる」
赤ら顔で上ずった声になる。そんな私を目の前で見たヴェイグ様は、先ほどの不機嫌な様子と打って変わって勝ち誇ったようになり、満足気に手を振り行ってしまった。