光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第三十三話 聖女と聖騎士 2
去っていったロクサスを見送ることもなく、踵を返して離宮に帰ろうとした。
ロクサスの言葉に胸がチクンとしている。
ヴェイグ様の特別になれるかどうか、わからない。
ロクサスは、ヴェイグ様は女好きだと言って反対する。私は、ここでも応援してくれる人もいないのかもしれない。
落ち込む。胸が重くて堪らなくなる。
それにマティアス様……ロクサスの言う通り、私はマティアス様が好きだった。
聖女に選ばれて、大聖女候補と呼ばれた私は両親と離れて、城へと迎え入れられた。
王太子殿下の婚約者として、迎え入れられたのだ。そして、両親と離れて不安気に城へと行った私を、マティアス様が王子様のように笑顔で私に手を伸ばして迎えてくれたのだ。
あれが、初恋だったのだろう。
だから、頑張った。王太子妃として、マティアス様に相応しくなろうと、妃教育も聖女としても頑張った。
でも、そんな私をマティアス様はいつしか鬱陶しそうにしていた。笑顔すら見せてくれなくなっていた。マティアス様が私に見せる笑顔は、人前だけの見せる笑顔だけ……私もいつの間にか、マティアス様のことが好きでなくなっていることに気付いた。
それでも、決められた結婚に大聖女候補という立場の私には、逃げ場所もなくなっていた。
そして、カレディア国に聖女や聖騎士たちが減り始め、選ばれた聖女たちも能力の低いものだった。実際にエリーゼも聖女としては、能力が低い。そんな時に、イゼル様に聖女機関の地下に連れて行かれて、私は黒髪が出現してしまった。
彼のことやカレディア国のことを思い出すと身体がざわついた。
その時に、ざわりと闇が私の髪から滲み出てきた。
「いや……っ」
闇に怯えてしまい、両手で顔を覆い縮こまるようにしゃがみ込んだ。震える身体を鎮めようと、歯を食いしばり身体中に力を入れた。
大丈夫。大丈夫……いつものように、光の魔法で闇を抑えるだけ。
心の中で何度もそう呟く。身体中からは、闇を抑えようと光魔法を出して、身体中が光で覆われていった。
「セレスティア!!」
名前を呼ばれると、血の気が引いた。これを人に見られるわけにはいかないのだ。
「セレスティア!! 大丈夫か!?」
「……ロクサス……」
顔を上げると、去っていったと思っていたロクサスが私の身体を支えた。
「どうして……帰ったんじゃ……」
「急に妙な気配がしたと思えば……」
「……大丈夫よ。すぐにおさまるから……大丈夫なの……」
「セレスティア……っ、こんなになるまで……っ」
不安気な様子を見せられなくて、ロクサスの前で泣けなかった。そんな私を見たロクサスが喉の奥からの言葉を飲み込むように、痛ましい表情を見せた。
どうしてこんなになるまで言わなかったのか……言えない。カレディア国の秘密で、聖女機関ではイゼル様しか知らない。今はロクサスにも伝えたようだけど、誰にも言えなかった。
そんなしゃがみ込んだままの私を、ロクサスが包み込むように彼も光魔法を出す。
ロクサスと私、二人の身体が闇を消そうとする光に包まれていた。