光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第三十七話 闇のシード 2


ヴェイグ様とヘルムート陛下の会話に思考が止まっていた。



シュタルベルグ国は、カレディア国が闇のシード(魔法の核)を隠していたことを知っていたのだ。



そのうえ、私が関わっていることも……じゃあ……ヴェイグ様が私を連れ出してくれたのは、カレディア国のどこにあるかわからない闇のシード(魔法の核)を手に入れるためで……。



「だが、セレスティアは、今は俺の手の中にある。セレスティアと引き換えにカレディア国が闇のシード(魔法の核)を出すと、俺は確信しています」

「では、早々に取り引きを持ち掛けるか……ちょうどいいところに、聖騎士ロクサス殿が来ているからな……彼の地位なら、聖女機関も無視できないだろう」



ヴェイグ様が私と逃げたのは、私のためではなかった。自惚れていたわけではない。

突然の告白に、戸惑いもした。でも、それが私を連れ出すための甘い誘い文句だったら……。



胸が刺されたように痛い。重くて息が止まりそうなほど重く感じる。ギュッと胸を押さえても、何も変わらなくて……。



違う。そうじゃない。



早くここから逃げないと、私はカレディア国に闇のシード(魔法の核)と引き換えに差し出されてしまう。



「それにしても、よく見つけられたな……」

「闇の気配をたどっていたら、偶然にもセレスティアに行きついたんですよ」



私が、闇に侵されていたから、ヴェイグ様が気付いたのだ。天井を通っていたのは、微かな闇の気配をたどっていたということで……その時に私が探索のシードを自分に埋め込もうとして、偶然にもヴェイグ様に向かって飛んで行ったのだ。



確かに、ヴェイグ様は驚いただろう。私も天井から男が落ちてきて驚いた。

ヴェイグ様が落ちてきた理由を言わなかったのも、わかってしまった。



「兄上」



突然、ヴェイグ様が強い声音でヘルムート陛下の言葉を止めた。ヴェイグ様の制止にハッとしてしまう。





しまった……ヴェイグ様は、探索のシードを持っているのだ。ここに私が隠れていることがバレてしまう。そう思うと、背筋がひやりとした。



「王妃……」

「相変わらず鋭いこと……」



すると、私が隠れている場所と違うところから、王妃様がやって来ていた。

ヴェイグ様は、王妃をじろりと睨んでいる。



「何の用ですか?」

「リリノアのことですよ。わかっているでしょう?」



王妃様が現れてくれたから、私が隠れていることはバレることはなかった。でも、これ以上ここにはいられない。



そして、ヴェイグ様たちに気付かれずに私はその場を逃げるように離れた。



以前から、聖女機関の地下に封印されている闇のシード(魔法の核)の封印が弱くなっていた。光の国と呼ばれるカレディア国では、あれは毒だった。



その証拠のように、光のシード(魔法の核)が弱くなっていた。



だから、聖女の能力も弱くなっているとイゼル様が言っていた。そのせいで、大聖女候補だった私が、大聖女になる前に呼ばれてあの闇のシード(魔法の核)の存在を知り、闇が溢れないように魔法をかけた。



あれの存在を知って封印を強めるのは、大聖女か筆頭聖騎士のどちらかなのだ。それ以外には秘密だった。知っているのは、他には陛下だけ。マティアス様はまだ王太子殿下であったから、知らなかったのだ。



そして、闇に触れたせいで私は闇に穢された。それから黒髪が出現し、いつも怯えていた。



闇は負の感情を増幅させて、かき乱す。



マティアス様と別れたいと願っていたことに隙があったのだろう。



誰とも懇意になることもなく、嘲笑や妬みが今まで以上に敏感になっていた。

でも、誰にも言えないままで、自分を一人で抑えていた。

あの存在が知られるわけにはいかなかったのだ。







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