光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第四十話 闇のシード 5
__手が届かなかった。
不安気な様子で泣いていたセレスティアに手が届かなかったのだ。
セレスティアが消えたこの場所には、ロクサスが魔法で身を庇っていた。セレスティアの闇が強すぎるのだ。だが……
「……出せ」
「何を……」
「転移のシード(魔法の核)を持っているのだろう! 早く出せ! セレスティアを迎えに行く!」
「どこに行ったか分かっているのか!?」
「当たり前だ! あれはカレディア国の闇のシード(魔法の核)のせいだ!」
ロクサスが、闇のシードの存在を俺が知っていることに驚く。そして、憎々しく歯を軋ませた。
「セレスティアが、カレディア国の秘密まで話したのか……それほど、この男がいいのか……」
「馬鹿々々しい。セレスティアが、話すわけない。あれは、遥か昔にカレディア国が封印したものだ。シュタルベルグ国にも、その話が伝わっているだけだ」
初めて知る情報なのか、ロクサスは驚いたままだった。それに酷く苛ついて、自然と視線が冷ややかな鋭いものになる。
「……フェルビアの砦の時も、そうだった。お前は、セレスティアが好きだと思ったが、大事なのは、セレスティアではないのだな。今も、聖女機関の秘密のことを頭に巡らせている」
「そんなことはない! 俺は、セレスティアを守るつもりで……っ!!」
「なら、さっさと転移のシードを出せ!! 俺はお前と違ってセレスティアのことしか頭にない!!」
セレスティアのことを指摘されて、一瞬躊躇するロクサス。そんな時間すら惜しくて、殺気立ってしまう。
「出す気がないなら、それでもかまわん。殺して奪い取るだけだ」
冷たい声音で言うと、周りの闇に触発されたように、身体中からでた闇が竜の形をしてくる。
「まさか……ドラゴニアンシード(竜の核)!?」
殺気立つものを感じたロクサスが、迷わず剣を抜いた。光の魔法を付属した剣は、美しく煌めく。
深淵のような漆黒の竜の形どった魔力。抵抗しようとするロクサスに、手をかけようと魔力とともに竜が蠢いた。
「止めろ!! ヴェイグ!!」
その怒号とともに、ロクサスと自分の間に炎で遮られた。
炎を使うのは、赤竜のドラゴニアンシード(竜の核)を持っている兄上だった。
炎の方角へと視線を移せば、嚇怒かくどした兄上が自分と同じように竜の形どった赤竜を背後に周りが赤くなっていた。
違うのは、自分のは黒竜で、兄上のは火の属性の赤竜だということ。
「……ロクサス殿。今は緊急事態だ。知らぬこともあるだろうが、カレディア国もこのままでは無事では済まない。ヴェイグをカレディア国に送って頂きたい。あれに、抵抗できるのは、ヴェイグだけだ」
「だ、出す気がないわけではない。ただ、あれはシュタルベルグ国では使えない。カレディア国でしか使えない魔道具なのです。せめてカレディア国の国境まで行かねば……」
「では、すぐにヴェイグと行って頂きたい。飛竜なら、一番近いカレディア国の領地に一日もかからずに行けるはずだ。そこで転移のシードを使ってヴェイグと聖女機関に行ってもらいたい」
「……っ、いいでしょう。セレスティアのためだ」
「そうだといい」
ロクサスが剣を収めると、兄上が赤竜を収めながら振り向いた。
「いいな。ヴェイグ。セレスティアは、おそらくお前を待っている」
「……すぐに連れて帰ります」
そう言って、自分の黒竜を身体に収めた。