光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第四十一話 闇のシード 6
漆黒の闇に囚われて、ゆらゆらと揺り籠で眠りについているような感覚だった。
ずっと悩んでいた。心は穏やかではなく、そこを闇のシード(魔法の核)に付け込まれた。
そのせいで、ますます心穏やかでは無くなっていた。
私の感情をかき乱す闇のシード(魔法の核)が怖くて、気づかないフリをしたこともあった。
それが、ヴェイグ様に利用されるのだと知ってしまい、自分の気持ちが抑えられなくなっていた。
マティアス様の時は、冷静に自分を保つことで、一年もやり過ごせたのに……。
♢
カレディア国の聖女機関。
突如として聖女機関の建物を飲み込むような闇が湧き出ており、聖女機関も城も混乱を極めていた。
地下から、現れた漆黒の闇が球体を模して、聖女機関を徐々に浸食している。
それを聖女や聖騎士たちが、必死で光魔法で抵抗し、押し返していた。
「イゼル! これはどういうことだ!? 早く手を打たねば!! 何をやっているのだ!!」
「何とか、聖女や聖騎士を集めて抑えておりますが、セレスティアもロクサスも不在なのです! 二人が帰って来るまで、何とか持たせますが……」
陛下が聖女機関まで慌ただしく来て、イゼルに詰め寄っていた。
「父上……これは一体何ですか?」
「マティアス……」
陛下である父上が、言葉に詰まらせてしまう。でも、目の前の状況にすでに隠せなくなっていた。そして、イゼルと顔を見合わせた父上が話し出した。
「闇のシード(魔法の核)だ。あれを聖女機関の地下で封じていたのだ。今まではセレスティアが抑えていたのだが……」
「セレスティアが……!?」
では、セレスティアがいなくなったせいで、抑えられずにこんな状況になってしまったと!?
「だからあれほど、セレスティアを連れ戻そうとしていたのに……! なぜ、セレスティアをシュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグ様に、セレスティアを渡したのです!! このままでは、カレディア国は滅びますぞ!!」
「セレスティアが……しかし、聖女も聖騎士も大勢いるではないか!!」
「セレスティアほどの聖女はいないのですよ! 彼女は大聖女候補だったのです! なぜお分かりになられないのか!!」
「しかし……っ!」
「この状況になって数時間。これだけ聖女たちが力を尽くしても、これが精一杯なのです!」
カレディア国が滅ぶ? セレスティアと婚約破棄をしたせいで!?
「みな、下がれ!!」
自分のしたことに呆然とする。陛下は、騎士たちを集めて、被害を抑えるために動き出している。イゼルは、さらに大きくなる漆黒の闇の球体が広がっていることに気付き、聖女たちを下げていっている。
「へ、陛下! イゼル! 光のシード(魔法の核)を持ってきましょう! 聖女たちが無理なら、せめてセレスティアたちが帰って来るまで抑えなければ!!」
「馬鹿なことを言うな! マティアス! あれが、闇のシード(魔法の核)に飲まれたら、カレディア国はおしまいだぞ!!」
「しかし、このままでは……!! 聖女たちが……っ」
陛下が駄目だと言って、提案を受け入れない。
「マティアス様。光のシード(魔法の核)は、ここ数年、闇のシード(魔法の核)の押されていたのです。聖女たちの能力が低くなっていたのはそのせいなのです。こんな状況で、持ってくるわけには……」
「そんな……」
何も知らなかった。では、あのセレスティアの黒髪は、これと関係あるのではないか。
そう思うと、エリーゼがイゼルに言われた聖女たちと共に、下がって来ていた。
「エリーゼ!!」
「マティアス様!!」
人目もはばからず、エリーゼが抱き着いてくる。
「マティアス様! 助けてください!! 怖いですわ!!」
「君は、聖女だろう! 逃げている場合ではない!」
「でも、私では……っ!! 私はマティアス様の婚約者になるのですよ! そんな私を他の聖女たちと同じにしないで……っ」
何の役にも立たないエリーゼ。今も、将来の王太子殿下の婚約者という立場を利用してこの場から離脱しようと懇願する。
「……っイゼル! 光のシード(魔法の核)を持って来よう! 危なくなればすぐに下げる! このままでは、全滅だぞ! 陛下は私が説得する!」
「仕方ないですな……っ!」
苦渋の決断だろう。いや、決断している暇もないのだ。
秘密裏に隠していたせいで、こんなになるまで言えなかった。それどころではない、あっという間にこんなに広がったのだ。
怒り心頭であろう陛下のおしかりを受ける羽目になろうが、今は聖獣様の光のシード(魔法の核)に頼るしかなかった。
「マティアス様……」
「なんだ! 今は君の泣きごとを聞いている暇はない!!」
「そうでは……誰かが来ます!!」
「当たり前だ!! 聖女機関に在籍している全ての聖女や聖騎士を集めているんだぞ!!」
「だから、そうじゃないんです!!」
うるさいと思えば、何かが空を切るように現れた。
瞬き一つすれば、そこにはいなかったロクサスとあの王弟殿下ヴェイグが眉根をつり上げて現れた。