光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第四十三話 闇のシード 8


漆黒の闇の球体の中には、セレスティアが横たわっていた。切なくなるほど驚いたのは、セレスティアの身体が薄い光の膜のようなもので覆われていたことだった。



「セレスティア……」



一人で自分を守っているセレスティアに、胸が痛くなる。

抱き上げれば、ぐったりとした身体で小さな呼吸をしている。髪は黒く染まり、眼のふちは赤く涙のあとが残っていた。



「セレスティア。起きろ……迎えに来たぞ」



セレスティアを慈しむように頬を撫でると、セレスティアの身体から、白い光を放つ鳥が煙のように現れてくる。



「お前が、セレスティアを守っていたのか……」



光を放つ小さな鳥は手のひらに乗るほどの大きさだった。これが、カレディア国の聖獣だろう。セレスティアは間違いなく聖女だった。光のシード(魔法の核)となった聖獣がセレスティアの中で彼女に力を与え続けていたのだ。



そう思っていると、セレスティアの瞼がゆっくりと動き出した。









「セレスティア……俺がわかるか?」

「……私を売ろうとしたヴェイグ様です……」

「それが、目覚めてすぐに言うことか……!」



そっと瞼を開けば、ヴェイグ様に頬をギュッと抑えられる。



「ヴェイグ様……痛いです」

「当たり前だ! だいたい何だ。売ろうとしたというのは」

「ヴェイグ様が、私を闇のシード(魔法の核)と引き換えると……だから、離してください……」

「嫌だね。どこから話を聞いていたのかは知らないが、セレスティアを売る気はない」

「でも、私と引き換えにと……言ってました。闇のシード(魔法の核)のことを知っていたのですよね」

「知っていた。カレディア国に行ったのは、闇のシード(魔法の核)を探すためだった」

「だから、私を連れ出してくれて……」



思い出せば辛くなり、また目尻に涙が浮かんだ。



「連れ出したのは、セレスティアが闇のシード(魔法の核)の器になりかけていたからだ」

「器……?」

「乗っ取られようとしていただろう?」

「闇が身体にずっとあったのは……」

「あれは、遥か昔に国々を滅ぼそうとしたシード(魔法の核)の欠片だ。魔王みたいなものか……」

「私、魔王になるところだったのですか?」

「セレスティアには、その力を受け入れられる器があった。今も、そこでずっと見ている」



ヴェイグ様の視線の先に目をやれば、黒い塊がこちらを見ている。目などないのに、視線を感じるのだ。

びくりと身体を震わせて、ヴェイグ様にしがみついた。

その側には、光る鳥が羽ばたいていた。



「……聖獣様?」

「やはりカレディア国の聖獣か……あれが、セレスティアをずっと守っていたみたいだな。セレスティアの身体から出て来た」

「聖獣様が……」



光のシード(魔法の核)に選ばれて聖女になったけど、いつから聖獣様が私に宿っていたのかはわからない。ずっとそんな気配はなかった。



でも、闇に取り込まれて、温かい感覚は感じていた。きっとこの中に取り込まれてから聖獣様は来たのだと思う。



「まさか……ここは、カレディア国ですか?」

「そうだが……本当なら、俺がセレスティアを守るつもりだったのに……」



驚くと同時に、ヴェイグ様が憎々しく呟く。



「あの、ヴェイグ様……」

「ああ、怖いのか。でも、もう大丈夫だ」



そう言って、ヴェイグ様が私を片手で抱きかかえたままで、闇に手を差し出した。



「来い。お前の欲しがっていた器だ。セレスティアではないぞ。俺のところに来い」

「ヴェ、ヴェイグ様!?」



慌てて止めようとヴェイグ様の胸ぐらを掴むと、ヴェイグ様の力強い手が私をさらに抱き寄せた。ヴェイグ様の顔が何よりも近くなり、唇が重なった。





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