光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第四十六話 頭が高いですわ 2


シオンもアベルも数日後には、カレディア国に到着していた。彼らは、ヴェイグ様がロクサスと転移のシードを使う時には、カレディア国に向けて飛竜で向かっていたらしい。



「アベル。怪我をさせてしまってごめんなさい」

「無事でようございました。それに怪我というほどのものではありませんので……セレスティア様は、どうかヴェイグ様の側にいてくださいね」



気遣ってくれるアベルに申し訳なくなるけど、アベルは気にした素振りもなかった。



「ヴェイグ様。アベルは、すごく優しいですね」

「俺の部下だからな」

「ヴェイグ様とは、正反対の好青年です」



どちらかと言うと、ロクサスに似ている。



「では、ドレスをお持ちしたので、すぐにお召しになってください」



シオンが、見計らったように声をかけてくる。



シオンたちが到着するまでの数日間。ヴェイグ様がこの離宮に私を匿ってくれていたおかげで、ゆっくりと二人でパズルをして休めていた。



でも、いつまでもそうしてはいられずに、今夜の晩餐にはカレディア国の陛下たちに招待されている。そのドレスを、シュタルベルグ国から持って来たシオンが用意してくれている。



ワインレッドのような深い赤のドレスに黒いシースルーをあしらったドレス。大人っぽい。



支度を整えて部屋を出れば、盛装姿のヴェイグ様が待っていた。

その姿に見惚れると、ヴェイグ様がそっと近づいてくる。



「綺麗だよ。セレスティア」



うっとりとした顔で言われることが、こそばゆい。こんな気持ちを味わえるなど考えたこともなかった。



「……嬉しいです」

「ああ、では行こうか」



少し照れながらそっとヴェイグ様の腕に手を添えて歩き出した。



隣には、赤を交えた黒を基調とした正装姿のヴェイグ様。

彼と揃いにするように、シオンに赤と黒を指示したのだろう。



「ヴェイグ様。晩餐会に来るのが早くないですか?」

「陛下に少し話がある。約束を取り付けているから問題はない。先に陛下のところに行くぞ」

「私もですか?」

「一人にするわけにはいかんだろう」

「はぁ……」

「そう言えば、御父上たちは、領地か?」

「はい……私がまだ、聖女を解任されたと知らないので来ているかもしれませんけど……王都からは、三日ほどで着きますよ」



本当ならば、すぐに手紙を出すつもりだったのです。



「ご実家にも、ご挨拶をせねばな……意外と緊張するものだ」

「ヴェイグ様が緊張ですか?」

「不思議と緊張している」



この堂々とした人が? そっちの方が不思議ですよ。

そう思い、こてんと首を傾げて歩いているとヴェイグ様が一言呟く。



「誰か来たぞ」

「よくわかりますね……」



二人で足を止めると、後ろから聖女機関の責任者であるイゼル様がやって来ていた。



「セレスティア」

「イゼル様……ご無沙汰しております」

「ああ、思ったよりも元気そうだな」

「……イゼル様は、少しお疲れですか?」

「気苦労が絶えぬ……」

「大丈夫ですか?」



たった数日で、疲れ切っているように見える。



「……少し話がある」

「婚約のことなら、セレスティアではなく俺を通していただこうか」



ヴェイグ様が、厳しい表情で私を塞いだ。少しだけ、空気がピリッとする。



「王弟殿下。お初にお目にかかります。婚約のことは……どうか、陛下とお話しください。私からは、聖女の話です……」

「でしたら、セレスティアには関係のない話だ。彼女は、聖女も解任されている」

「……セレスティアは、大聖女候補でした……その話をしなければなりません……」



イゼル様が、厳しい目つきで私を見る。でも、今更秘密の話などない。



「……ヴェイグ様。イゼル様と少しお話します。どうぞこのまま行ってください。どうせ、陛下の元に行っても、きっと王太子殿下との婚約の話になるでしょうし……私だと陛下たちの不興を買ってしまいますしね」

「頭が高いなど言うからだ」

「聞いてましたか……」



どうやら、マティアス殿下の頭が高いと言ったことを聞いていたらしい。



「……大丈夫なのか? セレスティア」



表情が暗んだ私を、心配そうにヴェイグ様が労わる。肩に回された手が熱い。



「大丈夫ですよ」

「何かあれば、すぐに呼べ」

「……また、来てくれるのですか?」

「当たり前だ」

「でも……本当に大丈夫です。私は、一人で十分です」

「バカなことを言うな。俺は、見捨てたりしない」

「……はい」



知っている。私のためにあの闇のシード(魔法の核)の中にまで追いかけて来てくれたのだ。



私は、誰も頼らずに強くならなくてはならなかったのに……でも、それが少しだけ心地よかった。目尻に涙が少しだけ浮かんでしまう。



「ヴェイグ様。すぐに追いかけますね」

「ああ」



ヴェイグ様が大事そうに私の身体を抱き寄せて頭にキスをして、名残惜しそうに行った。











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