光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第四十九話 そして逃亡
マティアス様がイゼル様に連れて行かれるのをヴェイグ様の腕の中で見ていた。
「大丈夫か? セレスティア」
「大丈夫です。今は何とも思ってませんから、むしろ清々しいぐらいです」
「そうみたいだな。俺のことを好きだと言ってくれたし……」
「聞いていたのですか?」
「どう出るか、みていただけだ」
「性格が悪いです。でも、助かりました」
くすりと笑みが零れれば、ヴェイグ様も満足気な笑みを見せた。
好きだと言ったのが、ヴェイグ様には満足だったらしい。
「では、離宮に帰るぞ」
「晩餐ですよ?」
「今夜は、中止だ」
これは、怒っているのだろうか。
ヴェイグ様に連れられて離宮へもどると、「少し用を済ませてくる」と言っていなくなっていた。
「シオン。ヴェイグ様はどこに行ったのでしょうか?」
「わかりかねますけど……嫌な予感がしますね」
「私もです」
怪しいと思いながらもドレスを着替えて、シオンたちと離宮でヴェイグ様が帰ってくるのを待っていた。
それから、1時間もしないうちにヴェイグ様が戻ってくると、なぜか機嫌がいい。
「どこに行っていたのですか?」
「少し灸をすえてやった」
「何を!?」
喉を鳴らして笑いを堪えているヴェイグ様が、腹黒くみえる。
「それよりも、すぐに出るぞ」
「は……?」
「セレスティアのご両親にご挨拶をしなければな。ウィンターベル伯爵領に行くぞ」
「今から!?」
「そうだ。シオン。すぐに出立だ」
やっぱり嫌な予感が当たったと、シオンの目が棒のようになっている。
「アベル。飛竜をすぐに出せ。離宮に降ろしてかまわん」
「はい」
アベルも驚きながらも、飛竜の置いてある城の庭へと走って行った。
「ヴェイグ様――! 飛竜を離宮におろせば、陛下が驚きますよ! 城に飛竜を駐屯させているだけでも、破格の待遇なんですから!」
「かまわん。力関係をわからせるにはちょうどいい」
「力関係? 確かにシュタルベルグ国のほうが大国ですけど……!」
「カレディア国は、シュタルベルグ国の属国になる。下につくのだ」
「カレディア国が!? いつからですか!!」
「祝祭で兄上が来るから、そこで正式な調印式をするんじゃいか? 後のことは、兄上の仕事だから知らん」
怖い。この人は何をやっているんでしょうか!!
あっという間に、ヴェイグ様が防寒も兼ね備えたマントをシオンから受け取ると、颯爽と身につける。離宮は一斉に慌ただしくなっている。
「行くぞ。セレスティア」
シオンに用意されたマントを私も身に着けると、ヴェイグ様と離宮を出た。そこには、アベルがヴェイグ様の指示通りに飛竜を離宮の上に連れてきている。
ゆっくりと下降してくる飛竜が地面に足を着けると、重い振動が少しだけした。
ヴェイグ様は、労うように優しく飛竜を撫でた。
「アベルは残って伝言を頼む」
「かまいませんが……どなたに伝言を?」
「イゼルか……カレディア国の陛下が来るか……どちらでもいいが、来た者に祝祭には来ると伝えておけ」
「それだけでいいのですか? すぐに来るかわかりませんけど……」
「いいや。絶対にすぐに来る。カレディア国は、光の国だからな」
私を持ち上げて飛竜に乗せながら、ヴェイグ様が言う。
「終われば、アベルもウィンターベル伯爵領に来い。では、行くぞ。セレスティア」
「陛下が倒れたら、どうしましょう……」
「知らん。寝込むんじゃないか?」
どうでもよさそうに言うヴェイグ様を乗せた飛竜が羽ばたくと、ヴェイグ様を先頭に連れて来た竜騎士たちが一斉に羽ばたいて出発した。
「シオンも執事なのに、飛竜に乗ってます……」
「シオンも竜騎士だ。あまり戦闘向きではないから、俺の執事にしただけだ」
だから、いつもいつも突然出発するヴェイグ様に付いて来られるのだとわかるけど……。
「急いで逃げるぞ!」
「今、逃げるって言いました!? 何から逃げるんですか!?」
「ご挨拶に行くの、間違いだ」
絶対に、間違いではない。何かやらかしたのだと思う。でも、この有言実行の王弟殿下を誰が止められるのか……。
そのまま、私たちはウィンターベル伯爵領へと飛竜で向かっていた。
「大丈夫か? セレスティア」
「大丈夫です。今は何とも思ってませんから、むしろ清々しいぐらいです」
「そうみたいだな。俺のことを好きだと言ってくれたし……」
「聞いていたのですか?」
「どう出るか、みていただけだ」
「性格が悪いです。でも、助かりました」
くすりと笑みが零れれば、ヴェイグ様も満足気な笑みを見せた。
好きだと言ったのが、ヴェイグ様には満足だったらしい。
「では、離宮に帰るぞ」
「晩餐ですよ?」
「今夜は、中止だ」
これは、怒っているのだろうか。
ヴェイグ様に連れられて離宮へもどると、「少し用を済ませてくる」と言っていなくなっていた。
「シオン。ヴェイグ様はどこに行ったのでしょうか?」
「わかりかねますけど……嫌な予感がしますね」
「私もです」
怪しいと思いながらもドレスを着替えて、シオンたちと離宮でヴェイグ様が帰ってくるのを待っていた。
それから、1時間もしないうちにヴェイグ様が戻ってくると、なぜか機嫌がいい。
「どこに行っていたのですか?」
「少し灸をすえてやった」
「何を!?」
喉を鳴らして笑いを堪えているヴェイグ様が、腹黒くみえる。
「それよりも、すぐに出るぞ」
「は……?」
「セレスティアのご両親にご挨拶をしなければな。ウィンターベル伯爵領に行くぞ」
「今から!?」
「そうだ。シオン。すぐに出立だ」
やっぱり嫌な予感が当たったと、シオンの目が棒のようになっている。
「アベル。飛竜をすぐに出せ。離宮に降ろしてかまわん」
「はい」
アベルも驚きながらも、飛竜の置いてある城の庭へと走って行った。
「ヴェイグ様――! 飛竜を離宮におろせば、陛下が驚きますよ! 城に飛竜を駐屯させているだけでも、破格の待遇なんですから!」
「かまわん。力関係をわからせるにはちょうどいい」
「力関係? 確かにシュタルベルグ国のほうが大国ですけど……!」
「カレディア国は、シュタルベルグ国の属国になる。下につくのだ」
「カレディア国が!? いつからですか!!」
「祝祭で兄上が来るから、そこで正式な調印式をするんじゃいか? 後のことは、兄上の仕事だから知らん」
怖い。この人は何をやっているんでしょうか!!
あっという間に、ヴェイグ様が防寒も兼ね備えたマントをシオンから受け取ると、颯爽と身につける。離宮は一斉に慌ただしくなっている。
「行くぞ。セレスティア」
シオンに用意されたマントを私も身に着けると、ヴェイグ様と離宮を出た。そこには、アベルがヴェイグ様の指示通りに飛竜を離宮の上に連れてきている。
ゆっくりと下降してくる飛竜が地面に足を着けると、重い振動が少しだけした。
ヴェイグ様は、労うように優しく飛竜を撫でた。
「アベルは残って伝言を頼む」
「かまいませんが……どなたに伝言を?」
「イゼルか……カレディア国の陛下が来るか……どちらでもいいが、来た者に祝祭には来ると伝えておけ」
「それだけでいいのですか? すぐに来るかわかりませんけど……」
「いいや。絶対にすぐに来る。カレディア国は、光の国だからな」
私を持ち上げて飛竜に乗せながら、ヴェイグ様が言う。
「終われば、アベルもウィンターベル伯爵領に来い。では、行くぞ。セレスティア」
「陛下が倒れたら、どうしましょう……」
「知らん。寝込むんじゃないか?」
どうでもよさそうに言うヴェイグ様を乗せた飛竜が羽ばたくと、ヴェイグ様を先頭に連れて来た竜騎士たちが一斉に羽ばたいて出発した。
「シオンも執事なのに、飛竜に乗ってます……」
「シオンも竜騎士だ。あまり戦闘向きではないから、俺の執事にしただけだ」
だから、いつもいつも突然出発するヴェイグ様に付いて来られるのだとわかるけど……。
「急いで逃げるぞ!」
「今、逃げるって言いました!? 何から逃げるんですか!?」
「ご挨拶に行くの、間違いだ」
絶対に、間違いではない。何かやらかしたのだと思う。でも、この有言実行の王弟殿下を誰が止められるのか……。
そのまま、私たちはウィンターベル伯爵領へと飛竜で向かっていた。