光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第五十話 カレディア国パニック
セレスティアをカレディア国の離宮に送り届けた後に、探索のシードを使ってマティアス殿下の部屋を探し出した。
広く豪華な部屋でマティアス殿下が憤りをぶつけるかのようにソファーのクッションを叩きつけている。
「セレスティアのやつ……っ!!」
何度もセレスティアにぶつけたかった怒りなのか、ひたすらにセレスティアの名前を口に出している。
「二度とセレスティアに近付くなよ」
そう静かな怒りを秘めて、マティアス殿下の部屋の扉に手を添えて言う。そして、この部屋だけを闇の帳を広げるように包み込んだ。
「ひっ……なんだっ!?」
マティアス殿下の悲鳴が混じった叫び声が聞こえる。
しばらく、そこで大人しくしていればいい。
セレスティアの初恋だからか、セレスティアに手を出そうとしていたからか、どちらか自分でもわからん感情がある。
その感情に素直に従いマティアス殿下を閉じ込めた。
そして、しばらくすれば、異変に気づいた近衛騎士たちが慌ただしく騒ぎだし、イゼルやロクサスたちがやって来た。そのあとには、カレディア国の陛下も青ざめて走って来ていた。
「あ、開けてくれーー!! 闇が……っ!!」
「いったいどういうことだ!?」
ロクサスが、急いで光魔法を出す。
視界の広がる眼前には、闇しかないマティアス殿下の部屋。いったいどこを叩いて助けを求めているのか、わからないが、扉か壁を叩いている音が響いていた。
「いったい何事だ! なぜ、マティアスの部屋に闇が広がっている!?」
陛下が、今にも腰を抜かしそうなほど驚愕している。
「こんなことをできるのは、ヴェイグ殿だけです! フェルビアの砦でも闇の帳を広げていました!」
ロクサスがあっさりとバラす。
「まさか、セレスティアに手をかけようとしたから……」
イゼルが茫然と呟いた。
「マティアスがセレスティアに……なんてことを……このカレディア国とシュタルベルグ国との関係を壊す気か!! 支配されればどうするのだ!!」
「だ、誰か、助けてくれっ……」
陛下が憤慨する中で、マティアス殿下が叫ぶ。
「ロクサス! まだ、闇が解けないのか!?」
「す、すみません……!! し、しかし、まったく効果が……。闇のシード(魔法の核)を取り込んだから、闇属性の力が上がっているのかもしれません!!」
「すぐに、ヴェイグ様をお呼びしましょう!」
「イゼル様。ヴェイグ殿が素直に解くとは……セレスティアへの報復ならなおさらです」
ロクサスとイゼルが、頭を抱えたままで闇に包まれたマティアス殿下の部屋を見る。
「しかし、このまま闇に飲まれていたら、マティアスが狂ってしまうぞ! ロクサス、もっと力を入れろ!」
「は、はい!!」
陛下の怒号に、ロクサスが再度光魔法で闇を払おうと始める。
「と、とりあえずマティアス様は、寝ていてください!! 起きているから恐ろしいのです! すぐにヴェイグ様をお連れしますので!!」
「こんな状況で寝られるか! ベッドもわからないんだぞ!!」
「今は他に手がないのですよ!」
イゼルが、必死でマティアス殿下に睡眠を促しているが……その様子に笑いが出る。
光の国と呼ばれて、光に守護されてきたカレディア国には、闇はどこの国よりも恐ろしいだろう。
少しでも、セレスティアの気持ちを味わうといい。彼女はずっと一人で耐えて来たのだから……。
そろそろ、潮時か……。まだまだ、高みの見物をしたいがそうもいかない。
そう思い、急いでセレスティアの待つ離宮へと陛下よりも早く、外から屋根伝いに向かい、一斉に飛竜でカレディア城を飛び立った。