光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第五十三話 光の祝祭 1
カレディア国の光の祝祭をまじかに控え、ウィンターベル伯爵領からカレディア国の城へと帰ることになった。
お父様たちも来ると言うので、ヴェイグ様が気に入られたいがために、お父様とお母様も飛竜に乗せてやって来た。
飛竜なら、ウィンターベル伯爵領から三日もかからずに来られて、城に来るなりお父様もお母様も始めての飛竜に興奮気味だった。
「とってもスリルがあって良いものですわね」
「なかなか、貴重な経験だったなぁ」
お父様とお母様がご機嫌で言う。
「感謝いたします。ヴェイグ様」
「気に入っていただけて、何よりです」
礼儀正しくヴェイグ様が応える。
「ヴェイグ様。その別人みたいなのは、どうにかならないのですか? 困惑します」
「失礼なことを言うんじゃない」
カレディア国の陛下よりも、お父様たちに礼儀を尽くすヴェイグ様に、これは陛下たちには見せられないと思い寒気がすると、ロクサスが迎えに出て来ていた。
「セレスティア。やっと帰って来てくれたか」
「ロクサス……急ぎの用事でもありました?」
「……それがだな……陛下がお待ちだ」
目を細めて言葉を詰まらせて、ヴェイグ様をじろりと睨むロクサス。
これは、怒っている。そう言えば、マティアス様にお仕置きをして逃げて来たのだったけど……。
「まぁ、こちらの聖騎士様もよろしいお顔ねぇ。セレスティアちゃん」
「お母様は、ちょっと黙っていてください」
真剣な雰囲気をぶち壊したお母様を下げると、ヴェイグ様がお父様とお母様に振り向いた。
「お父上、お母上。名残惜しいですが、我々はこれで失礼します」
和やかに別れると、さっそくロクサスが「一緒に」と私とヴェイグ様を陛下の待っている部屋にと促した。
「私は、陛下との話し合いには遠慮したほうがいいですね。もうカレディア国の聖女ではありませんし……」
「そのことだが、セレスティアにも話がある。陛下とイゼル様の話を聞いて欲しい。俺からも頼む」
「くだらんことを言えば、すぐにセレスティアを連れて行くぞ」
「わ、わかってます」
『行くぞ』というワードが『逃げる』に聞こえるのは、私だけでしょうかと一人思う。
そのままロクサスについて、ヴェイグ様とカレディア国の陛下の元へと言った。
陛下が待っていた部屋には、書斎机に疲れ切ったカレディア国の陛下。その後ろには、イゼル様が立っている。こちらも、陛下に負けず劣らず疲れ切っている。
その書斎机の前の一人掛けソファーには、シュタルベルグ国のヘルムート陛下が肘をついて座っていた。
「ずいぶんゆっくりだったな。楽しめたか? ヴェイグ」
「兄上。もう来ていたのですか?」
「今回は、光の祝祭に合わせて、カレディア国の陛下との会談をもうけるからな」
カレディア国がシュタルベルグ国の属国となる。そのために、ヘルムート陛下自ら来たのだと言う。
「それにしても、カレディア国の陛下はお疲れだぞ」
「では、しっかりと養生すればいいのでは?」
「少し手加減しなさい」
ツンと顔を逸らすヴェイグ様に、ヘルムート陛下は含みのある笑みを見せた。
「それと、セレスティア。里帰りしたばかりで悪いが、カレディア国の陛下と聖女機関のイゼル殿が、大事な話があるようだよ」
ロクサスもそう言って、私までヴェイグ様と陛下の前へと連れてこられたのだ。
少し警戒してしまうと、ヴェイグ様が眉根をつり上げて二人を威嚇する。
「……ヴェイグ。睨むのはやめなさい」
ヘルムート陛下が、さすがに呆れ気味で言う。マティアス様にしたことを聞いているんだろう。
「あの、イゼル様。陛下。王太子殿下は大丈夫ですか?」
「なぜ、王太子殿下のことを聞く?」
「ちょっと黙っててください。会話を始めるには、取っ掛かりも必要なのですよ」
嫉妬むき出しで怖い表情で私まで睨んでくるヴェイグ様に、誰のせいで険悪な空気になっていると思っているのかと呆れる。
すると、ヘルムート陛下が、カレディア国の陛下に言う。
「俺から伝えましょうか?」
「いえ、私から伝えます。どうせ、わかることですから……」
「失礼。出しゃばった真似を」
ヘルムート陛下が、カレディア国の陛下に気を遣っている様子がうかがえた。
「ヴェイグ殿。セレスティア。王太子殿下であったマティアスは、今回のことで、王太子殿下を外れた。次の王太子は王侯公爵の中からになるが……いずれ、会うだろう」
「王太子殿下では、ない?」
「そうだ。カレディア国を危機に落とし、光の祝祭も危ぶまれている」
陛下が心労を隠し切れないで言う。
それは、カレディア国では大問題だ。
光の祝祭は、カレディア国には欠かせない祝祭なのだ。
そして、陛下に続いてイゼル様も話し出した。
「セレスティアは、光の祝祭の意味を知っておろう」
「はい」
「その祝祭のために、聖女としての役目を果たしてもらいたい」
「聖女は、解任されたままですか?」
「すでに、解任は解いている」
意地悪な言い方をしてしまった。マティアス様が王太子殿下から落ちたということは、その理由の一つだった私の聖女解任も戻すことは考えられることだった。
いや、なかったことにしているのかもしれない。
「……セレスティア」
悩む私に、ヴェイグ様が少しだけ腰をかがめて、そっと心配気に見つめた。
「……そうですね。聖女の任は受けてもいいと思います。でも、条件を出させてください」
「条件?」
「はい。私の条件を飲んでくださるなら、光の祝祭で聖女として光のシード(魔法の核)に光を灯します」
「その条件は? 可能なことか?」
「はい。陛下のお言葉があれば、可能です」
「そうか。では、聞こう」
「はい」
返事をすると、一度だけ深呼吸をした。両手を揃えて、陛下に懇願の姿勢を取った。
「どうか、光の祝祭には、ヴェイグ様を私のそばに置いてください」
イゼル様が今にも首を傾げそうに疑問が頭をよぎっている。
「セレスティア……どういう意味だ? ヴェイグ殿は貴賓席にいるから、誰より良く見えるはずだが……」
「貴賓席ではありません。私が光を灯す時に、そばにいて欲しいのです」
「なっ……! それは……」
イゼル様が、驚いて思わず声にならない声を上げた。隣のヴェイグ様も驚いている。
光の祝祭で、光のシード(魔法の核)と共に壇上に上がるのは、光を灯す聖女と光のシード(魔法の核)を割る聖騎士だけなのだ。
「……くくっ。それは良い。ちょうど、光の祝祭でシュタルベルグ国の属国になることを発表する予定だった」
ヘルムート陛下が、喉を鳴らして笑った。
「陛下。イゼル様。私は、光の祝祭が終わればシュタルベルグ国に行くのです。いくらシュタルベルグ国の属国になろうとも、私はカレディア国の聖女だと思われては、ダメなのです」
「それは……」
カレディア国からシュタルベルグ国の属国になろうとも、私がカレディア国に縛られるわけにはいかない。光の祝祭で光のシード(魔法の核)に光を灯すのは、大聖女もしくは大聖女候補になるような聖女なのだ。
そんな聖女が、光の祝祭の後でシュタルベルグ国に行くことになっていれば、何も知らない国民はどう思うだろうか。
それならば、光の祝祭でヴェイグ様が私の特別だと知らしめたほうがいいのだ。
「陛下。イゼル様。この髪を見てください。黒髪がもうどこにもないのです。そうしてくださったのは、ヴェイグ様です。ヴェイグ様が、クリスタルブルーの髪に戻してくださったのですよ。国民全てに、闇のシード(魔法の核)の存在も気付かれずに収めたのです。だから、光の祝祭が例年通り行えるのです。私の以前の黒髪の異変にも、気付かれることはないのですよ」
クリスタルブルーの髪に触れると、以前と同じように、どこにも黒髪はない。さらりとした髪が少しだけ靡いた。
「わかった……そうしよう。だが、壇上には上がらないように」
「はい。感謝いたします。陛下」
陛下がさらに疲れた顔で項垂れた。きっと今夜の晩餐には、出られないだろうと、この部屋にいる誰もが察した。
お父様たちも来ると言うので、ヴェイグ様が気に入られたいがために、お父様とお母様も飛竜に乗せてやって来た。
飛竜なら、ウィンターベル伯爵領から三日もかからずに来られて、城に来るなりお父様もお母様も始めての飛竜に興奮気味だった。
「とってもスリルがあって良いものですわね」
「なかなか、貴重な経験だったなぁ」
お父様とお母様がご機嫌で言う。
「感謝いたします。ヴェイグ様」
「気に入っていただけて、何よりです」
礼儀正しくヴェイグ様が応える。
「ヴェイグ様。その別人みたいなのは、どうにかならないのですか? 困惑します」
「失礼なことを言うんじゃない」
カレディア国の陛下よりも、お父様たちに礼儀を尽くすヴェイグ様に、これは陛下たちには見せられないと思い寒気がすると、ロクサスが迎えに出て来ていた。
「セレスティア。やっと帰って来てくれたか」
「ロクサス……急ぎの用事でもありました?」
「……それがだな……陛下がお待ちだ」
目を細めて言葉を詰まらせて、ヴェイグ様をじろりと睨むロクサス。
これは、怒っている。そう言えば、マティアス様にお仕置きをして逃げて来たのだったけど……。
「まぁ、こちらの聖騎士様もよろしいお顔ねぇ。セレスティアちゃん」
「お母様は、ちょっと黙っていてください」
真剣な雰囲気をぶち壊したお母様を下げると、ヴェイグ様がお父様とお母様に振り向いた。
「お父上、お母上。名残惜しいですが、我々はこれで失礼します」
和やかに別れると、さっそくロクサスが「一緒に」と私とヴェイグ様を陛下の待っている部屋にと促した。
「私は、陛下との話し合いには遠慮したほうがいいですね。もうカレディア国の聖女ではありませんし……」
「そのことだが、セレスティアにも話がある。陛下とイゼル様の話を聞いて欲しい。俺からも頼む」
「くだらんことを言えば、すぐにセレスティアを連れて行くぞ」
「わ、わかってます」
『行くぞ』というワードが『逃げる』に聞こえるのは、私だけでしょうかと一人思う。
そのままロクサスについて、ヴェイグ様とカレディア国の陛下の元へと言った。
陛下が待っていた部屋には、書斎机に疲れ切ったカレディア国の陛下。その後ろには、イゼル様が立っている。こちらも、陛下に負けず劣らず疲れ切っている。
その書斎机の前の一人掛けソファーには、シュタルベルグ国のヘルムート陛下が肘をついて座っていた。
「ずいぶんゆっくりだったな。楽しめたか? ヴェイグ」
「兄上。もう来ていたのですか?」
「今回は、光の祝祭に合わせて、カレディア国の陛下との会談をもうけるからな」
カレディア国がシュタルベルグ国の属国となる。そのために、ヘルムート陛下自ら来たのだと言う。
「それにしても、カレディア国の陛下はお疲れだぞ」
「では、しっかりと養生すればいいのでは?」
「少し手加減しなさい」
ツンと顔を逸らすヴェイグ様に、ヘルムート陛下は含みのある笑みを見せた。
「それと、セレスティア。里帰りしたばかりで悪いが、カレディア国の陛下と聖女機関のイゼル殿が、大事な話があるようだよ」
ロクサスもそう言って、私までヴェイグ様と陛下の前へと連れてこられたのだ。
少し警戒してしまうと、ヴェイグ様が眉根をつり上げて二人を威嚇する。
「……ヴェイグ。睨むのはやめなさい」
ヘルムート陛下が、さすがに呆れ気味で言う。マティアス様にしたことを聞いているんだろう。
「あの、イゼル様。陛下。王太子殿下は大丈夫ですか?」
「なぜ、王太子殿下のことを聞く?」
「ちょっと黙っててください。会話を始めるには、取っ掛かりも必要なのですよ」
嫉妬むき出しで怖い表情で私まで睨んでくるヴェイグ様に、誰のせいで険悪な空気になっていると思っているのかと呆れる。
すると、ヘルムート陛下が、カレディア国の陛下に言う。
「俺から伝えましょうか?」
「いえ、私から伝えます。どうせ、わかることですから……」
「失礼。出しゃばった真似を」
ヘルムート陛下が、カレディア国の陛下に気を遣っている様子がうかがえた。
「ヴェイグ殿。セレスティア。王太子殿下であったマティアスは、今回のことで、王太子殿下を外れた。次の王太子は王侯公爵の中からになるが……いずれ、会うだろう」
「王太子殿下では、ない?」
「そうだ。カレディア国を危機に落とし、光の祝祭も危ぶまれている」
陛下が心労を隠し切れないで言う。
それは、カレディア国では大問題だ。
光の祝祭は、カレディア国には欠かせない祝祭なのだ。
そして、陛下に続いてイゼル様も話し出した。
「セレスティアは、光の祝祭の意味を知っておろう」
「はい」
「その祝祭のために、聖女としての役目を果たしてもらいたい」
「聖女は、解任されたままですか?」
「すでに、解任は解いている」
意地悪な言い方をしてしまった。マティアス様が王太子殿下から落ちたということは、その理由の一つだった私の聖女解任も戻すことは考えられることだった。
いや、なかったことにしているのかもしれない。
「……セレスティア」
悩む私に、ヴェイグ様が少しだけ腰をかがめて、そっと心配気に見つめた。
「……そうですね。聖女の任は受けてもいいと思います。でも、条件を出させてください」
「条件?」
「はい。私の条件を飲んでくださるなら、光の祝祭で聖女として光のシード(魔法の核)に光を灯します」
「その条件は? 可能なことか?」
「はい。陛下のお言葉があれば、可能です」
「そうか。では、聞こう」
「はい」
返事をすると、一度だけ深呼吸をした。両手を揃えて、陛下に懇願の姿勢を取った。
「どうか、光の祝祭には、ヴェイグ様を私のそばに置いてください」
イゼル様が今にも首を傾げそうに疑問が頭をよぎっている。
「セレスティア……どういう意味だ? ヴェイグ殿は貴賓席にいるから、誰より良く見えるはずだが……」
「貴賓席ではありません。私が光を灯す時に、そばにいて欲しいのです」
「なっ……! それは……」
イゼル様が、驚いて思わず声にならない声を上げた。隣のヴェイグ様も驚いている。
光の祝祭で、光のシード(魔法の核)と共に壇上に上がるのは、光を灯す聖女と光のシード(魔法の核)を割る聖騎士だけなのだ。
「……くくっ。それは良い。ちょうど、光の祝祭でシュタルベルグ国の属国になることを発表する予定だった」
ヘルムート陛下が、喉を鳴らして笑った。
「陛下。イゼル様。私は、光の祝祭が終わればシュタルベルグ国に行くのです。いくらシュタルベルグ国の属国になろうとも、私はカレディア国の聖女だと思われては、ダメなのです」
「それは……」
カレディア国からシュタルベルグ国の属国になろうとも、私がカレディア国に縛られるわけにはいかない。光の祝祭で光のシード(魔法の核)に光を灯すのは、大聖女もしくは大聖女候補になるような聖女なのだ。
そんな聖女が、光の祝祭の後でシュタルベルグ国に行くことになっていれば、何も知らない国民はどう思うだろうか。
それならば、光の祝祭でヴェイグ様が私の特別だと知らしめたほうがいいのだ。
「陛下。イゼル様。この髪を見てください。黒髪がもうどこにもないのです。そうしてくださったのは、ヴェイグ様です。ヴェイグ様が、クリスタルブルーの髪に戻してくださったのですよ。国民全てに、闇のシード(魔法の核)の存在も気付かれずに収めたのです。だから、光の祝祭が例年通り行えるのです。私の以前の黒髪の異変にも、気付かれることはないのですよ」
クリスタルブルーの髪に触れると、以前と同じように、どこにも黒髪はない。さらりとした髪が少しだけ靡いた。
「わかった……そうしよう。だが、壇上には上がらないように」
「はい。感謝いたします。陛下」
陛下がさらに疲れた顔で項垂れた。きっと今夜の晩餐には、出られないだろうと、この部屋にいる誰もが察した。