光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。
第五十四話 光の祝祭 2
「大聖女様候補のセレスティア様だ」
「なんて神々しい……」
「お美しい聖女様だ……」
__光の祝祭。
多くの国民が城と繋がっている聖女機関に集まっていた。まだ光を灯してない前の歓声までもいかなくとも、国民たちは待ちわび、聖女である役目をおおった私を褒めたたえる声がところがしこに聞こえる。
国民たちの視線を集める先には、大きく広がるバルコニー。飛竜が何頭も駐屯できるほどの大きさで、祭儀用に使われることもあるこの場所に、私が造った光のシード(魔法の核)が置かれていた。
光のシード(魔法の核)のそばには、祝祭のための聖女と聖騎士の盛装姿の私とロクサスがいる。
ロクサスは、カレディア国の聖騎士らしい白を基調とした黄色と銀色を交えた聖騎士の盛装姿。私も、そうなるはずだった。白を基調とした黄色や金色を交えた聖女の衣装になるはずだったが、急遽変更して、私だけが、淡い水色を基調とし黒色と赤色を帯びさせたものになっていた。カレディア国よりも、シュタルベルグ国の色を意識したものだ。
光の祝祭に高揚感が高まっている中では、今のところ誰も突っ込まない。
後ほど、噂にはなるだろうけど、シュタルベルグ国の属国になることは決まっているし、だからといって、シュタルベルグ国は直接的な支配はしない。王族も存続させるし、今まで通り収めるのは陛下だ。聖女機関も揺るがないものだろう。
でも、カレディア国は二度とシュタルベルグ国に優位な交渉はできないのだ。
「無理してすることはなかったのではないか?」
「無理ではありません……それに、カレディア国の聖獣様も私を助けてくれたことをお忘れですか? 恩返しです」
「あれか……そのために?」
「はい」
「……また、セレスティアの前に現れそうな気がするが……」
「そうだと良いです」
聖獣様にも、感謝している。でも、きっと姿を現わすのは、ロクサスにだと思える。
今も存在しているのか、光で形を成したのかわからないけど、カレディア国と光のシード(魔法の核)を守るのは私ではなくて、ロクサスなのだ。
「それにしても、凄いな……これを一人で造ったのか?」
高身長のヴェイグ様よりも、大きな光のシード(魔法の核)を見てヴェイグ様が感心する。
「そうですけど……用途の決まったシード(魔法の核)を造るほうが、私には難しいですね。これは、光の魔力を入れるだけの物というか……大きく造る必要があったので、半年以上もかかりましたけど」
だから、早く探索のシードを返して欲しかったのです。何個も造るのは疲れるのです。
三ヶ月もかかりましたからね。ヴェイグ様のせいで、一瞬でなくなりましたけど。
「セレスティアは、稀に見る能力の高い聖女だ。それも、シード(魔法の核)造りが得意なのですよ」
「ふーん……庭園でも、造っていたしな」
「はい。シュタルベルグ国に帰れば、確認してみましょう」
ロクサスが、ヴェイグ様までもがこの場にいることに不快感丸出しだった。
「ロクサス……ヴェイグ様がここにいるのが嫌なの?」
「当たり前だ。祝祭の光のシード(魔法の核)の役目は、聖女一人と聖騎士一人だ。それなのに、この場にもう一人いるなんて……」
「でも、私は去るのよ……カレディア国はあなたが守ればいいじゃないの」
「言われなくともそうする。セレスティアは、どこにでも行けばいい」
ロクサスが、聖騎士らしく表情を引き締めている。
「……こちらも困った奴だと思ったが……ただのツンデレという奴か? マティアスとは、少し違うか。まぁ、一生後悔していればいい」
ツンデレって何ですか? と聞きたいが、ロクサスとヴェイグ様の雰囲気に聞けないままで二人を見た。
「後悔などしない。自分がマヌケだったとは、自覚しています」
「なかなか潔いな」
ほうっと驚いたヴェイグ様は、見る目が変わったように、ロクサスに感心している。
そのロクサスを褒めたたえる声も国民の歓声に交じって聞こえる。
銀髪碧眼の聖騎士ロクサスは、カレディア国で人気なのだ。
女性に人気だけではない。男性からも憧れられているほどだった。
「……そろそろ時間だ。セレスティア。始めるぞ」
「はい。ヴェイグ様。そこで見ててくださいね」
「ああ、ずっとそばにいる」
用意された光のシード(魔法の核)を置いた壇上に上がると、バルコニーの手すりよりも高い位置にあるために、下からでも良く見える。
私とロクサスが壇上に上がると、騒いでいる国民の声が静かになった。
ロクサスと視線を交わして頷く。それが合図のように光のシード(魔法の核)に手を添えれば、日中でありながら、眩い光がシード(魔法の核)から放たれた。
聖獣様の聖なる光のように、輝くシード(魔法の核)に祈りを捧げる様な人々。そして、ロクサスが、白銀の剣を抜けば、光魔法で付与した白銀の剣を振り下ろした。
大きさもまちまちに割れた光のシード(魔法の核)が、煌めくように崩れていく。
聖女の役目と聖騎士の役目をした私とロクサスはここでは、何も言葉を発せない。
そう言う決まりだった。
そして、人々に向かって手を振るだけ。
すると、一斉に歓声が上がる。
カレディア国で、一番大きな光の祝祭が始まったのだ。
横に振り向けば、壇上のそばにはヴェイグ様がいる。彼が手を伸ばすと、私を抱き寄せるように壇上から下した。
逞しいヴェイグ様の腕は、いつでも安心して、頬が薄く紅潮しながらも寄り添いたくなる。
「セレスティア」
「はい」
ヴェイグ様の腕の中に包まれた私に、壇上から降りたロクサスが呼び止めて、振り向きざまに何かを投げてきた。
「持って行け。きっと何かの役に立つ」
そう言って、投げつけた物をヴェイグ様が掴んだ。ヴェイグ様が広げた手のひらを見れば、たった今割ったばかりの光のシード(魔法の核)だった。
「光のシード(魔法の核)……これは、今から聖女機関の聖女や聖騎士たちが集めて人に配るのよ?」
「いくつあるかなど、どうせ誰にもわからない。持って行ってもバレないから気にするな」
欲しい人々に、この光のシード(魔法の核)を配布するのだ。誰もが欲しがるこれを、人々は今か今かと待ち構えている。
「……ありがとう。ロクサス」
「いいんだ」
ヴェイグ様の手から、光のシード(魔法の核)を受け取ると大事に握りしめ、ヴェイグ様が「では、行こう」と私を傍らに抱き寄せたままで歩き出した。
背を向けたロクサスは、今はどんな顔をしているのだろうか。
すると、ヴェイグ様が足を止めて振り向いた。
「ロクサス。お前には、俺に敬語を取ることを許可しよう」
「それは……助かる。貴殿のことは大嫌いなので」
むすっと不機嫌さを表しているのはロクサスなのに、大物感が出ているのはヴェイグ様だった。
むしろ、偉そう。
「ヴェイグ様。ロクサスに意地悪しないでくださいね」
「そんなことはしない。それよりも、街に出よう」
「光の祝祭を街で祝うのは初めてです。屋台も出ているみたいですよ」
今まで、光の祝祭をこんな風に楽しみにしたことなどなく、初めて祝祭で街にヴェイグ様と出ることに胸を躍らせていた。
そして、私が光のシード(魔法の核)に光を灯した聖女だとバレて騒ぎになり、集まってくる人々の集団から、二人でカレディア国から逃亡したのは言うまでもない。