光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

第八話 深夜の野営

王都から出発して、すでに深夜だった。

馬車はひたすらに進んでいる。馬車の中では、長い足を組んで座っているヴェイグ様の隣に座っていた。



「ヴェイグ様。どこまで行くのですか? シュタルベルグ国は、一日では着きませんよね」

「フェルビアの砦に飛竜を置いている。少しでも早くフェルビアの砦に着きたいから、もう少し進む予定だ」

「すっごく遠いのですけど……」



シュタルベルグ国は、竜騎士団が有名だった。飛竜に乗ってカレディア国に来ることもあるけど、飛竜のいないカレディア国では、竜騎士団の飛竜の世話が出来ないという理由で、砦を貸すことがよくあるのだ。今回は、フェルビアの砦を貸していたらしい。



あんな大きな飛竜が城にいる場所を確保するのも大変だと言うのが、理由の一つでもある。



「明日は、早馬に乗り換えるから、馬車よりは早く着くだろう」

「でも、このままだと街は通りませんよ」

「そうだろうな。今夜は野宿だ」

「……私、迷惑かけてます?」



王弟殿下に野宿させるなんて、畏れ多いことではないだろうか。



「むしろ、助かったのだが? あの探索のシードは貴重だ。それに、なかなかに質が良い」

「そうでしょうね……あんな便利なシード(魔法の核)は売ってませんから……」



苦労して造りましたからね。どんな気配や探し物でも出来るように、いくつもの魔法紋を組み合わせて造ったのですよ。



「でも、お仕事は大丈夫ですか?」

「……目的の一つは達成した。数か月後のカレディア国で行われる光の祝祭の警備の話も付いたしな」

「ああ、それで来ていたのですか?」



王弟殿下だから、外交に励んでいるのかもしれない。……でも、なぜ、天井に?



「ヴェイグ様……」

「なんだ?」

「……天井裏を通るのが趣味なのですか?」

「そんな趣味の奴はいない」



だったら、なぜ、私の部屋の天井を通過するのですか。未だにその理由がわからない。

すると、馬車がやっと止まった。



「ヴェイグ様。今夜はここで休みましょう。すぐに、野営の準備に入ります」

「ああ、頼む」



停まった馬車の外から、ヴェイグ様の部下がそう話しかけてくる。

馬車のカーテンをそっと開けば、真っ暗な森の中だった。



「……今夜は野宿で我慢してくれるか? 明日は、どこか宿を取ろう」

「気にしていません。聖女として、森に出向くときもありました。その時は、野宿することもありましたので……むしろ、私のせいでこんなことになったのだと思うと、申し訳なくて……」

「気にしなくていい。不貞を疑われたのは、俺の責でもある」



それは、そうだと思う。でも、私を助けてくれたのも、ヴェイグ様だ。

今も、馬車を降りて野宿の準備を御者に指示し始めている。途中で合流したヴェイグ様がシュタルベルグ国から連れて来た騎士たちも、馬から降りて野宿の支度を始めていた。



「ヴェイグ様。私も手伝いますよ」

「手は足りているが……」



あっという間に準備に取りかかる騎士たちを背後に、ヴェイグ様が馬車の扉の所に戻って来た。



「少し休め。大したもてなしはできんが、これくらいはさせてもらう」



そう言って、あっという間に野宿の準備が整った。

真っ暗な森の中で、騎士たちが焚き火を真ん中に囲みスープのいい匂いがしてくる。



馬車の扉を開けたままで座っている私に、ヴェイグ様がお茶を出してくれる。暖炉もない森の中はひんやりとしており、ヴェイグ様の貸してくれたマントに身体を包んでいる私がそっと口を付けると温かくてホッとした。



「……美味しいです」



甘いのに、さっぱりとしたお茶は香りが良い。



「シュタルベルグ国から持参したお茶だ。口に合って何よりだな」

「まぁ、シュタルベルグ国から……」



私の側でヴェイグ様もお茶を飲んでいると、騎士がスープとパンも持ってきてくれる。

用意がいい。少しの食事だけど、休みなくここまで来た私には、有り難いものだった。











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