血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第十四話 フェアラート 2
__翌日。
フェアラート公爵邸は騒がしくなっていた。
「リラ・リズウェル伯爵令嬢を出すんだ!」
「ジェイド様がもうすぐでお帰りになります。どうか、それまでお待ちください!」
「ならぬ! 王妃様のご命令だ!」
若く屈強な騎士を先頭に、フェアラート公爵邸の玄関ホールで執事に詰めよっている。執事の後ろには、何事だと使用人たちが集まっている。メイドたちは、肩を寄せ合って怯えている。下僕たちは、執事が止める騎士たちを邸に入れないように武者震いをして執事の壁になっている。
隠れているように言われたけど、この状況で隠れられるわけがない。
使用人たちに手を出される前にと思い、階段を降りて姿を現した。
「……みんな。下がってください」
「リラ様! いけません。すぐにジェイド様がお帰りになりますので……!」
ジェイド様は、今日は王都へと行くはずだった。そのせいで、彼は朝早くから王都へ向かっている。その彼に、戻ってもらうようにと早馬を出したらしいけど……。
「リラ・リズウェル伯爵令嬢」
「私をご存知ですか?」
「社交界で、何度も見たことがあります」
「そうですか……」
「まったく、フェアラート次期公爵様を誑かしてこんなところに、隠れているとは……」
「隠れているわけではありませんけどね……それに、無礼です。あなたは、お名前も名乗らずに、私を一方的に知っており、お名前を名乗らずに無実の私を捕らえに来たのですか?」
「あなたは、有名ですよ。珍しいライラック色の髪にこの整った顔。美人だと思えば、小柄なあなたは、可愛いと言われて有名ですからね」
「あなたに、美人とも可愛いなどとも思われたくありません」
いつものように冷ややかな眼で王妃様の騎士を睨んだ。すると、彼は私に手をのばしてきて顎に手を添えた。
「私をご存知ないか? クレメンス・ディノス次期男爵ですよ。あんなにお声をかけたのに……」
背筋がぞくりとした。気持ち悪い。あの人以外に触れられたくない。いや、あの人以外は身体が受け付けないのだ。
「イヤッ……!」
添えられた手を勢いよく払った。
「……このっ!!」
すると、カッと怒ったクレメンスが私の頬を叩いた。
「どうせ、もう純潔などないのだろう!? あの噂は有名だからな! それに、今は魔法も使えないはずだ。王妃様があなたに逃げられないように一番に魔法封じをしたからな。ああ、この魔法紋だ」
ドレスの袖を捲り、罪人だと証明するかのように私の腕の刻まれた魔法紋を見せつけるクレメンス。使用人たちが、「お嬢様!」と言って、震えている。
すると、執事が飛び出してきた。
「おやめください! お嬢様をお放し下さい!」
「抵抗するものは、捕らえろと言われている。容赦する必要はない。斬れ」
フェアラート公爵邸は騒がしくなっていた。
「リラ・リズウェル伯爵令嬢を出すんだ!」
「ジェイド様がもうすぐでお帰りになります。どうか、それまでお待ちください!」
「ならぬ! 王妃様のご命令だ!」
若く屈強な騎士を先頭に、フェアラート公爵邸の玄関ホールで執事に詰めよっている。執事の後ろには、何事だと使用人たちが集まっている。メイドたちは、肩を寄せ合って怯えている。下僕たちは、執事が止める騎士たちを邸に入れないように武者震いをして執事の壁になっている。
隠れているように言われたけど、この状況で隠れられるわけがない。
使用人たちに手を出される前にと思い、階段を降りて姿を現した。
「……みんな。下がってください」
「リラ様! いけません。すぐにジェイド様がお帰りになりますので……!」
ジェイド様は、今日は王都へと行くはずだった。そのせいで、彼は朝早くから王都へ向かっている。その彼に、戻ってもらうようにと早馬を出したらしいけど……。
「リラ・リズウェル伯爵令嬢」
「私をご存知ですか?」
「社交界で、何度も見たことがあります」
「そうですか……」
「まったく、フェアラート次期公爵様を誑かしてこんなところに、隠れているとは……」
「隠れているわけではありませんけどね……それに、無礼です。あなたは、お名前も名乗らずに、私を一方的に知っており、お名前を名乗らずに無実の私を捕らえに来たのですか?」
「あなたは、有名ですよ。珍しいライラック色の髪にこの整った顔。美人だと思えば、小柄なあなたは、可愛いと言われて有名ですからね」
「あなたに、美人とも可愛いなどとも思われたくありません」
いつものように冷ややかな眼で王妃様の騎士を睨んだ。すると、彼は私に手をのばしてきて顎に手を添えた。
「私をご存知ないか? クレメンス・ディノス次期男爵ですよ。あんなにお声をかけたのに……」
背筋がぞくりとした。気持ち悪い。あの人以外に触れられたくない。いや、あの人以外は身体が受け付けないのだ。
「イヤッ……!」
添えられた手を勢いよく払った。
「……このっ!!」
すると、カッと怒ったクレメンスが私の頬を叩いた。
「どうせ、もう純潔などないのだろう!? あの噂は有名だからな! それに、今は魔法も使えないはずだ。王妃様があなたに逃げられないように一番に魔法封じをしたからな。ああ、この魔法紋だ」
ドレスの袖を捲り、罪人だと証明するかのように私の腕の刻まれた魔法紋を見せつけるクレメンス。使用人たちが、「お嬢様!」と言って、震えている。
すると、執事が飛び出してきた。
「おやめください! お嬢様をお放し下さい!」
「抵抗するものは、捕らえろと言われている。容赦する必要はない。斬れ」