血に堕ちたライラックはウソにまみれている
第十五話 フェアラート 3
騎士たちが剣を抜く。王妃様の命令にこの男は粛々と従うのだろう。
「あなたは、王妃様のお気に入りなのね……」
「それがどうした? 私の実力を王妃様は買ってくださっているからな」
「でも、自分では手を汚さない。もし、このことがフェアラート次期公爵様であるジェイド様が訴えたら、使用人たちを傷つけた騎士たちはどうなりますか? あなたのように、無事で済むとでも? みな様は、ちゃんと考えて剣を抜いたのですか?」
彼らを睨みながら、そう言った。クレメンスには効果は無い。でも、一瞬、一歩だけ後ずさりをしたクレメンスの連れて来た騎士たちには、効果はあるのだろう。
「睨んでも無駄だぞ。どうせ、すぐに処刑されるんだ。どんな扱いをしても許されるからな」
「あなただけ、が許されるんですね」
「それが、どうした?」
バカな男です。後ろの騎士たちの訝しんでいる視線にも気づかない。
「何をやっている!!」
騎士たちが躊躇していると、さらに後ろから叫び声がした。
「そこを通せ! 下がるんだ! 俺は、ジェイド・フェアラートだ!!」
力まかせに私を引きずって連れて行こうとしたクレメンスが、玄関外から聞こえた叫び声に足を止めた。
クレメンスに引きずられそうに腕を掴まれている私を見たジェイド様が、今にも襲い掛かりそうなほどの表情を見せた。
「リラを離せ!!」
「チッ……ジェイド・フェアラートか」
ジェイド様の喧騒にクレメンスが乱暴に私の腕を離した。腕が痛い。掴まれた腕は赤くなり、自分を慰めるように腕を握りしめた。
「リラ、大丈夫か!?」
「ジェイド様……」
憎々しくジェイド様を睨むクレメンス。だけど、私の腕は震えたままだ。
「下がるのは、お前だ。ジェイド。私は王妃様のご命令で来ているんだぞ」
「ふざけるなよ。リラを無実だ」
「ふん……では、聡明な王妃様にご采配してもらえばいい」
采配などするわけない。王妃様の元へと連れて行かれたら、すぐに処刑されてしまう。王妃の権力を我が物のように傘に被っているクレメンスに、ますますジェイド様が怒りを露にした。
「クレメンス。誰に向かって言っているんだ。たかが男爵家程度の爵位の男が、俺に立てつくのか?」
「私は、男爵位として来ているのではない! 王妃様の名代で来ているのだ!」
「フェアラート公爵家に無断で踏み込んで、言い逃れが出来ると思うなよ」
「それは、こちらのセリフだ! 王妃様のご命令に逆らうのか!? 王族に逆らうなど、次期公爵といえども、どうなるかわかっているのか!」
「では、俺が命令しよう」
睨みあう二人に、冷ややかな声音が響いた。顔を上げれば、ブラッド殿下が近付いてきている。
「ブラッド様……」
「大丈夫か? リラ」
口角は上がったままなのに、ブラッド様は怒っている。眉は釣りあがったままだ。
「クレメンス。ここで何をしている。俺は、リラの捕縛を頼んだ覚えはない」
「王妃様のご命令です」
「忠実なことだ。だが、下がれ。勝手は許さない」
「ブラッド殿下に命令される謂れは……」
奥歯を嚙み締めてクレメンスが言う。
「クレメンス。周りを見ろ。お前の連れて来た部下はすでに戦意は無い。証拠も何もない令嬢を無理やりに捕縛するなど、どうなるかわかっているのか? 俺が騎士団を治めていることを忘れるな。必要とあらば、貴様を捕らえることになるぞ」
「しかしっ……」
「では、こうしよう。クレメンス。お前は俺の命令でこのまま王都へ帰るんだ。王妃様への大事な伝言のために」
「伝言ですか?」
「そうだ。王妃に勝手なことは身を滅ぼすと進言されるのがいいだろう」
「わ、わかりました……すぐに王妃様にご報告いたします。殿下の身がどうなるかはわかりませんが……」
「お前に心配されるほど、俺の立場は不安定なものではない」
クレメンスは、ブラッド殿下に逆らえず、座り込んでいる私を見据えた。そして、ジェイド様に耳打ちする。
「ジェイド。お前が結婚しようとしているこの女の噂は本当だぞ。純潔などありはしない。身を引いた方がいい」
「お前には、関係ない」
ジェイド様が怒りを込めて言うと、クレメンスは納得がいかないまでも、渋々去っていった。
「あなたは、王妃様のお気に入りなのね……」
「それがどうした? 私の実力を王妃様は買ってくださっているからな」
「でも、自分では手を汚さない。もし、このことがフェアラート次期公爵様であるジェイド様が訴えたら、使用人たちを傷つけた騎士たちはどうなりますか? あなたのように、無事で済むとでも? みな様は、ちゃんと考えて剣を抜いたのですか?」
彼らを睨みながら、そう言った。クレメンスには効果は無い。でも、一瞬、一歩だけ後ずさりをしたクレメンスの連れて来た騎士たちには、効果はあるのだろう。
「睨んでも無駄だぞ。どうせ、すぐに処刑されるんだ。どんな扱いをしても許されるからな」
「あなただけ、が許されるんですね」
「それが、どうした?」
バカな男です。後ろの騎士たちの訝しんでいる視線にも気づかない。
「何をやっている!!」
騎士たちが躊躇していると、さらに後ろから叫び声がした。
「そこを通せ! 下がるんだ! 俺は、ジェイド・フェアラートだ!!」
力まかせに私を引きずって連れて行こうとしたクレメンスが、玄関外から聞こえた叫び声に足を止めた。
クレメンスに引きずられそうに腕を掴まれている私を見たジェイド様が、今にも襲い掛かりそうなほどの表情を見せた。
「リラを離せ!!」
「チッ……ジェイド・フェアラートか」
ジェイド様の喧騒にクレメンスが乱暴に私の腕を離した。腕が痛い。掴まれた腕は赤くなり、自分を慰めるように腕を握りしめた。
「リラ、大丈夫か!?」
「ジェイド様……」
憎々しくジェイド様を睨むクレメンス。だけど、私の腕は震えたままだ。
「下がるのは、お前だ。ジェイド。私は王妃様のご命令で来ているんだぞ」
「ふざけるなよ。リラを無実だ」
「ふん……では、聡明な王妃様にご采配してもらえばいい」
采配などするわけない。王妃様の元へと連れて行かれたら、すぐに処刑されてしまう。王妃の権力を我が物のように傘に被っているクレメンスに、ますますジェイド様が怒りを露にした。
「クレメンス。誰に向かって言っているんだ。たかが男爵家程度の爵位の男が、俺に立てつくのか?」
「私は、男爵位として来ているのではない! 王妃様の名代で来ているのだ!」
「フェアラート公爵家に無断で踏み込んで、言い逃れが出来ると思うなよ」
「それは、こちらのセリフだ! 王妃様のご命令に逆らうのか!? 王族に逆らうなど、次期公爵といえども、どうなるかわかっているのか!」
「では、俺が命令しよう」
睨みあう二人に、冷ややかな声音が響いた。顔を上げれば、ブラッド殿下が近付いてきている。
「ブラッド様……」
「大丈夫か? リラ」
口角は上がったままなのに、ブラッド様は怒っている。眉は釣りあがったままだ。
「クレメンス。ここで何をしている。俺は、リラの捕縛を頼んだ覚えはない」
「王妃様のご命令です」
「忠実なことだ。だが、下がれ。勝手は許さない」
「ブラッド殿下に命令される謂れは……」
奥歯を嚙み締めてクレメンスが言う。
「クレメンス。周りを見ろ。お前の連れて来た部下はすでに戦意は無い。証拠も何もない令嬢を無理やりに捕縛するなど、どうなるかわかっているのか? 俺が騎士団を治めていることを忘れるな。必要とあらば、貴様を捕らえることになるぞ」
「しかしっ……」
「では、こうしよう。クレメンス。お前は俺の命令でこのまま王都へ帰るんだ。王妃様への大事な伝言のために」
「伝言ですか?」
「そうだ。王妃に勝手なことは身を滅ぼすと進言されるのがいいだろう」
「わ、わかりました……すぐに王妃様にご報告いたします。殿下の身がどうなるかはわかりませんが……」
「お前に心配されるほど、俺の立場は不安定なものではない」
クレメンスは、ブラッド殿下に逆らえず、座り込んでいる私を見据えた。そして、ジェイド様に耳打ちする。
「ジェイド。お前が結婚しようとしているこの女の噂は本当だぞ。純潔などありはしない。身を引いた方がいい」
「お前には、関係ない」
ジェイド様が怒りを込めて言うと、クレメンスは納得がいかないまでも、渋々去っていった。